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その１０ 監督：バルド・マーロ 出演：レイマート・サンチャゴ、ジェニファー・メンドーサ、ライラニ・ナバロ、エディ・グチェレス、キング・グチェレス、ディック・イスラエル 1997年9月、突如としてフィリピン映画の日本語字幕入りビデオが発売されたとの情報が飛び込んできた。 作品のタイトルは『レオン・コルデロ 地獄からの使者』。タイトルからすると、アクション映画だろう。主演はレイマート・サンチャゴ、ジェニファー・メンドーサ、監督はバルド・マーロ（はい、当然ながら、わたしゃ全然知りませんです。だって、フィリピン映画に関する知識って、自分の見たことのある映画に限られてしまうのだから）。 製作年はというと、1996年。おおっ！ なんと去年作られたばかりのピッカピカの新作ではありませんか。 発売元は「ホセ・タガログビデオアーツ」。そんなの聞いたことないぞ。 思わず「どういう会社なんですか？」って問い合わせを出したら、細田治和さんという人がたった１人で「フィリピンの映画会社との商談、現地映画会社での作品選定、翻訳、字幕作成、字幕入力、広報、販売などすべて」をこなしているのだそうだ。それって、ほとんど家内制手工業の世界じゃありませんか！ だけど、「業者に一部を依頼すれば楽ですが、逆に商品の単価が２倍、３倍となるため依頼しません」、細田さんはそう言う。ううっ、泣かせるぜ。 ちなみに、『レオン・コルデロ 地獄からの使者』のお値段は送料込みで2,300円！！ や、安すぎる！ あまりにも安すぎるんで、大丈夫なんだろうか？って心配しつつも注文しちゃったんだけど、ちょっと気になることがあるので「フィリピン映画百花繚乱！」のパンフレットをひっぱりだしてみる。そしてチェックしてみると、やっぱりそうだった。なんと細田治和さんて、『スター誕生』とか『母・姉妹・娘』とか『カインとアベル』とか『あの日の約束（ドナ・クルーズ！！）』とか『フロール事件』とか、そういったフィリピン映画の字幕をかたはしから担当している人ではありませんか。おおっ、それなら信用できるぞ！ 細田さんによると、「ホセ・タガログビデオアーツ」では、引き続きコメディやラブ・ストーリーなども出していく予定とのこと。それまたすっごい楽しみ（社会問題などを取り扱った重厚な作品は、各映画祭とのかね合いから発売を控えるとのこと）。 で、そのホセ・タガログビデオアーツの第１弾ビデオ『レオン・コルデロ 地獄からの使者』が届いたところで、さっそく見てみた。 こんな映画だ。 密輸の現場を警察に急襲され、レオンの父は逮捕されてしまう。実はその密輸事件の背後には、地元の名士、ドン・サラサールがいた。レオンの父の口から、そのことがばれることをおそれたサラサールは、保釈金を出して警察からレオンの父を助け出した上で殺害してしまう。 レオンは父の死の真相を執拗に探るが、そのことを知ったサラサールは手下のならず者にレオンを襲わせる。が、レオンを襲った銃弾は、レオンのガールフレンド、リレットの命を奪う。そのリレットこそ、サラサールが溺愛してやまないたった一人の娘であった。 父の死の真相を知ったレオンが、復讐のためにリレットを殺したと報告されたサラサールは、軍隊をまきこみ、徹底的なレオン捜索を開始する。レオンを匿った叔父も殺され、四面楚歌のレオンは母の薦めでマニラの叔父の元へと身を隠す（それまでの舞台はレイテ島だったかな？ とにかく、マニラとは離れた場所）。 ジープニー（乗合バス）の運転手をする叔父の元に身を隠すレオンだが、そこではワライとトトイという二人の男が率いるグループが縄張争いを繰り返していた。やがて、レオンの腕を見込んだワライが彼を仲間に引き込み、いやがおうもなくレオンはふたつのグループの対立に巻込まれて行く。 一方、サラサールは手下をマニラに送り込み、警察を巻き込んで執拗にレオンの行方を探させる。そして、グループ抗争が過熱して血で血を洗う殺しあいに発展したことで、レオンの存在は警察の知るところとなり、またしても逃亡を余儀なくされる。トトイとの抗争、サラサールと警察からの逃亡で、レオンは次々と仲間を失っていく。そしてたったひとりとなったレオンは、復讐のため、サラサールの館へと単身乗り込んで行くのだった……。 地元の実力者を敵にまわしたことで、軍隊から警察まですべてが敵になってしまうというシチュエーションがなかなか悲惨であるが、ある意味ではリアルな展開でもある。他のフィリピン映画などを見ても同様の展開がよく見られるが、フィリピンの軍隊や警察は、どうやら公僕という意識が低いようなのである。だから、金持ちの手先となって貧乏人を追うという展開がまま見られるのだ。 でもって、あとからあとから銃撃戦が展開されるのだけれど、フィリピンて本当に銃器のたくさんある国だなあとあきれかえってしまう（ま、映画の中の話ですけどね）。なにせ、レオンを匿っている叔父の家がサラサールの手下に急襲されると、叔父はフルオートライフルと拳銃を出してきて応戦するのだ。なんと、ごくごく普通の人がそんなものを隠し持っているのである。で、そういう銃を持っていない人はというと、矢を飛ばす武器（ボウガンなんかじゃなくって、ゴムかなにかで矢を飛ばすのだ）とか、金属製のヌンチャクとか、ナイフとか棍棒とかで闘うのである。レオンも鉄パイプを改造したライフルで敵のあじとを襲撃したりして、なかなかそのあたりもリアルだったりする。 そういったあたりは、なかなか新鮮なものが感じられて面白いのだが、作品の完成度としては、標準よりちょっと上といったあたりだろうか。破綻のない作品ではあるが、だからといってとりたてて優れた作品というわけでもない。主人公がもっともっとズタボロになっていって、しまいに怒りを爆発させるというような、そういう展開上でのメリハリというものがないのだ。演出にも大向こうを唸らせるようなところはなし。つまり、イメージとしてはフィリピンに行ってフラリと映画館に入って見られそうな、そんなアクション映画なのである（フィリピンに限らず、香港だろうとどこだろうと、ごくごく一般的に作 られているアクション映画のちょっとましな部類といったところだろう）。 しかし、そういった作品だからこそ嬉しいといった側面も僕にはある。なにせ、フィリピン映画のごくごく普通の作品というのが、日本ではなかなか見られないのだ。映画祭にまれにかかるフィリピン映画っていったら、社会問題をまっ正面から取り扱ったような作品ばかりなのだから。こういった作品はなかなか貴重なのだ。 主役のレオン・コルデロを演じているのは、レイマート・サンチャゴという若手スター。アクション系で人気のある俳優なのだろうか。日本人の基準からいうと、そうハンサムというわけではない。女優はリレットにライラニ・ナバロ、マリーサにジェニファー・メンドーサ。残念ながら、個性を発揮するほどの役は与えられていないので、魅力的な女優なのかどうか、いまいち分からなかった。どちらかというと、チンピラのメンバーの中に魅力的な女優がいたのだが、名前をチェックすることはできなかった。 あらかじめビデオの画質はあまりよくないと説明を受けていたが、なるほど、画面はあまりクリアではないし、途中で画質の乱れる部分がある。これは、オリジナルの保存状態が悪いせいなのだろう。 しかし、字幕に関しては「本当に個人がひとりでやってるの？」と言いたくなるほどしっかりしている。これは驚いた。字幕をつけている細田さんという人は、映画祭などで上映されるフィリピン映画の字幕翻訳をされている人で実績は充分にあり、内容に関しては不安はなかったのだが、字幕を入れる作業まで自分でされるということで、そのことにいささかの技術的な不安はあったのだ。だが、そのことに関しては何も問題はなし。実に安心して見ることができた。 というわけで、その気になれば個人の力で日本語字幕付きのビデオを発売にこぎつけることができるのだ。そう思うと、なんだか夢が広がるではありませんか。 なお、『レオン・コルデロ 地獄からの使者』は、2003年のアジアフォーカス福岡映画祭の協賛企画である「フィリピン・インド映画フェスティバル」にて上映されている。  その後、ホセ・タガログビデオアーツからは『オハオハ！ 全員集合！（O-HA! AKO PA?）』というコメディが発売され、僕も買って見ているのだけれど、そのレポートがどこからも見つからなかった。ニフティのパソコン通信「アジア映画フォーラム」に感想を書いているはずなのだけれど、そのログがどこからも出てこなかったのだ。 そしてホセ・タガログビデオアーツからはもう１本、アガ・ムラ主演の『ソフィア 愛を再び』というラブロマンスがリリースされているのだけれど、これは販売ではなく郵送によるレンタルという形をとっていた。日本でのビデオ化をする際に、販売の権利まで買うと高くなってしまうのだが、レンタルだけだと安く権利を買えたからである。残念ながら、この時の作品についても見た時の感想が見つからなかった。当時のパソコン通信のログが見つかれば、そこに書いてあるはずだと思うのだけれど。 「オハオハ！ 全員集合！（O-HA! AKO PA?）」1995年 監督：マイク・レロン・マキリング 出演：ジミー・サントス、オジー・アルカシド、サンシャイン・クルーズ  「ソフィア 愛を再び（Ang KATAWAN ni Sofia）」1992年 監督：マウロ・ギア・サモンテ 出演：アガ・ムラ、クリスティナ・ゴンザレス 
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