2025年に観たフィリピン映画

【ターミナル 人妻の情事(Pamasahe)】2022年

監督：ロマン・ペレス・ジュニア
キャスト：アジ・アコスタ、フェリックス・ロッコ



　乳飲み子を抱えた少女のような面立ちのリネス（アジ・アコスタ／Azi Acosta）。台風で住む家を失った彼女は、無一文の状態で夫のいるヌエバセゴビアに向かう。その途中の長距離バスで彼女はロド（マーク・アンソニー・フェルナンデス／Mark Anthony Fernandez）という男性に助けられ、隣り合わせたロドに自分の悲惨な過去を語り始めるのだった。
　幼い頃に親に死に別れ、親戚の世話になるが唯一の肉親である兄はどこかに売り飛ばされてしまう。親戚の家では性的虐待を繰り返されるが、あるとき、行方不明だった兄が現れ、兄夫婦とともに暮らすようになる。だが、日本に出稼ぎに出た兄嫁はコロナのために帰国できなくなり、その間にリネスは兄と関係を持ち、やがて妊娠し、兄と離れた地で娘を出産する。だが、台風で家を失い、兄／夫のもとに向かうのだが、チケットを買わずに潜り込んだフェリーで船員に見つかり、船員たちから次々に陵辱されてしまう。それでもなんとか長距離バスに辿り着いてロドに助けられるのだったが……。

　このところ、日本語字幕付きのフィリピン映画を観ようと思うと、ビバフィルム制作のエロティック映画ばかりになってしまうのだけれど、本作もやはりビバフィルム制作の作品である。
　正直、観ているのが辛くなる映画だった。ヒロインと出会う男性はことごとく彼女の体を求めるのだ。特に観ていてしんどいのが船員たちによるレイプシーン。こういう場面は生理的に拒否反応が強くて、あまり観たくない。それでも、この手のエロティック映画に必ずといっていいほどこういうセックスを女性に強要するシーンが出てくるのは、こういう場面に興奮する男性が多いということなのだろうか。
　それでも、主人公を演じているアジ・アコスタの強い意志を感じさせるきりっとした表情が気になって最後まで観ていくと、なんととんでもないどんでん返しが待ち受けていてビックリさせられる。それまで彼女が語ってきた悲惨な過去の物語というのが、どこまで真実であるのか、まったくわからなくなってしまうのだ。
　とはいうものの、このどんでん返し、いまいちすっきりしない。よくわからない部分が多く残ってしまうのだ。もう少し、すっきりと整理してくれると「ええっ、そうだったのかあ！」とすごくビックリするのに、なんかもやもやしたものが残ってしまうのである。

　主人公を演じるアジ・アコスタは、少女のような童顔でありながら、きりっとした眉毛、意志の強そうな瞳が印象的な女優だった。ビバフィルムの売れっ子女優のひとりである。2022年に『Ang babaeng nawawala sa sarili』でデビューして同年に4本の映画に出演して、2023年には7本、2024年には3本の映画に出ているが、それ以外にもテレビシリーズにも出演している。特に2024年の『Lumuhod ka sa lupa』というテレビシリーズには100エピソードに出演しており、映画の出演本数が減っているのはおそらくこのドラマのせいなのだろう。日本語字幕付きで観られる作品には『高級娼婦（Call Me Alma）』『セリーナズ・ゴールド（Selina's Gold）』『人妻の秘密 午前0時の誘い』があるらしいのだが、検索するとU-NEXTで配信されていると出てくる『高級娼婦』という作品が、U-NEXTに見当たらないので、いまいち謎だったりする。
　他に、リネスの兄役で、ブリランテ・メンドーサ監督作品の常連俳優であるフェリックス・ロッコ（Felix Roco）も出ている。
　監督は、『ハウスメイド　欲望のしもべ（The Housemaid）』『アダン　禁断の果実（Adan）』などのロマン・ペレス・ジュニア（Roman Perez Jr.）。

　ちなみに、この映画に「人妻の情事」というサブタイトルをつけた配給会社の担当者は、はたしてこの映画をちゃんと観たのだろうか？　だって、主人公は「人妻」ではないし、「情事」という言葉にふさわしいような行為はただのひとつもなかったぞ。