2024年に観たフィリピン映画

【ロロ・アンド・ザ・キッド（Lolo and the Kid）】2024年

監督：ベネディクト・ミケ
キャスト：ジョエル・トーレ、ユーワン・ミカエル


　路上生活者のロロ（ジョエル・トーレ／Joel Torre）と少年キッド（ユーワン・ミカエル／Euwenn Mikaell）。ふたりは、人の優しさにつけこんで詐欺を繰り返し、逞しく生きてきたのだが……。
　ちなみに、「ロロ」というのはタガログ語でじいちゃんのこと。ばあちゃんは「ロラ」。
　脚本はみごとなまでにこの手の作品のパターン通りで、ひねった設定とか、新しいアイデアとか、そういったプラスアルファの要素はまったくない。ここまでシンプルだと、ストーリー紹介であれこれ書くことすらできない。実にもって潔いほどシンプルな作品なのだ。「潔い作品」と書くとまるで褒めているようだけれど、この潔さを褒めるべきなのか、あるいは貶すべきなのか、自分でもいまいち判断がつかない。
　しかし、それでいてついつい観てしまい、最後にはガッツリ泣かされてしまう。本気で泣かされてしまう。「僕らは永遠に相棒だ」と言っていたふたりなのに、キッドのためを思って必死につらさをこらえて背をむけるロロ。「じいちゃん、じいちゃん、僕をおいてかないで！」と泣き叫ぶキッド。こんなん、泣かずに観られるわけないじゃん。これだけ泣かされるってことは、やはり演出もうまいってことなんだろうな。作品の潔さを褒めるべきなんだろうな。
　キッドを演じているユーワン・ミカエル（Euwenn Mikaell）は、2013年生まれで、なんと4才の時から子役としてテレビドラマに出演しており、2023年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルで上映された『Firefly』では主役を演じていたりもする。おそらく、名子役として知られた存在なのだろう。
　一方のジョエル・トーレはというと、『牢獄処刑人』の暗殺者から、『ブローカーたち（The Brokers）』の悪徳政治家から、『Miracle in Cell No. 7』の人のいい牢名主役から、『BARUMBADINGS』のゲイのファッション界のカリスマ役まで、とにかく幅広くなんでもこなすフィリピン映画界の名優のひとり。本作における微妙な表情の絶妙なことよ。
　このジョエル・トーレとユーワン・ミカエルの演技の素晴らしさゆえに泣かされたという要素もずいぶんと大きかったと思う。
　そして、ふたりに騙される人のいい金持ち役で、イーザ・カルザド（Iza Calzado）、ジョエム・バスコン（Joem Bascon）、シャイナ・マクダヤオ（Shaina Magdayao）などといったお馴染みの俳優も出演しており、枠役の布陣もばっちりだ。
　監督のベネディクト・ミケ（Benedict Mique）は脚本家出身で、テレビシリーズや映画の監督としても活躍している人のようだけれど、作品を観たのは今回が初めて。本作では脚本も担当している。