2024年に観たフィリピン映画

【アウトサイド（Outside）】2024年

監督：カルロ・レデスマ
キャスト：シド・ルセロ、ビューティ・ゴンザレス


　ボロボロの車で農村地帯に逃れてきたフランシス（シド・ルセロ／Sid Lucero）とアイリス（ビューティ・ゴンザレス／Beauty Gonzalez）の夫婦と、ふたりの息子のジョシュとルーカス。どうやら、世界はゾンビのために壊滅の危機に陥っていて、この家族はフランシスの実家へと逃れてきたのだった。だが、フランシスの父はすでに自殺を遂げており、ゾンビと化した母親はフランシスによって倒される。このゾンビは不死身ではなく、殺すことができる存在なのだった。
　アイリスは安全だと言われていた北に向かうことを主張するが、フランシスは実家に立てこもることを主張する。孤立した家族に外からの情報は何もなく、どうすることが正解なのか、誰にもわからなかった。
　だが、子どもの頃にその家で父親（ジョエル・トーレ／Joel Torre）から受けたDVがトラウマとなっているフランシスは、その家に住み着くことで徐々に狂気に犯されていく。次第に、アイリスたちにとっての脅威はゾンビではなく、フランシスとなっていくのだった……。

　なかなか異様なゾンビ映画である。屋敷に立てこもった人間とゾンビとの攻防となるのかと思いきや、次第に異様さを増していくフランシスとの戦いへと物語は変貌していくのだ。この狂気に犯されたフランシスがなかなかに怖い。あたかも、『シャイニング』におけるジャック・ニコルソンのような存在となっていくのだ。家族を屋敷に閉じ込めて、自分の支配下に置こうとするフランシス。ところが、さらにそこにゾンビが襲いかかってくるのである。しかも、フィリピン映画であるからには、ここに家族間での葛藤というテーマが濃密に持ち込まれてくる。いやあ、もう満腹だ。
　前半はそこそこ静かな雰囲気で展開するものの、途中から緊迫感のある場面が続き、そこにショッキングな場面があれやこれやと投入され、休まる間がない。疲労感とともに、なかなかの満足感の得られるホラー映画といっていいだろう。

　監督はカルロ・レデスマ（Carlo Ledesma）。過去に『The Tunnel』『Sunod』といったホラー映画を撮っている監督のようだ。
　フランシスを演じるシド・ルセロは『ヴァージンフォレスト　愛欲の奴隷（Virgin Forest）』の主役を演じているのだけれど、その時の役名がこれまたフランシスだったりする。
　アイリスを演じているビューティ・ゴンザレスは、ブリランテ・メンドーサ監督の『Moro』『義足のボクサー（GENSAN PUNCH）』の他、『イン・マイ・マザーズ・スキン（In My Mother's Skin）』『Hellcome Home』『サード・パーティ（The Third Party）』などに出演。
　他に、『結婚なんて許さない！（Four Sisters and a Wedding）』『アルター・ミー：心に耳を傾けて（Alter Me）』『漁師（The Fisher）』などのエンチョン・ディー（Enchong Dee）、『牢獄処刑人（On the Job）』『ブローカーたち（The Brokers）』『Miracle in Cell No. 7』『ダイ・ビューティフル（Die Beautiful）』などの名優ジョエル・トーレなどが出ている。
　また、プロデューサーには『漁師（The Fisher）』『マニャニータ（Mañanita）』などのポール・ソリアノ（Paul Soriano）が名を連ねている。