2024年に観たフィリピン映画

【あの夏の欲望（SISID）】2022年

監督：ブリランテ・メンドーサ
キャスト：パオロ・グマバオ、ヴィンス・リロン


　海洋生物学者のジェイソン（パオロ・グマバオ／Paolo Gumabao）は、自然保護プロジェクトの調査のために、結婚7年目の最愛の妻アビー（カイリー・ヴェルゾーサ／Kylie Verzosa）をともなってミンドロ島ポラ市へと赴く。長年にわたって採掘会社による海洋汚染が進行しており、漁民保護のためにもなるべく早く自然保護区に指定する必要があったのだ。
　現地では、2人はオーガニック農園を営むブレッシー（メイトン・ユージェニオ／Mayton Eugenio）のもとの滞在し、ジェイソンは連日、市がつけてくれた助手のデニス（ヴィンス・リロン／Vince Rillon）とともに調査のためのダイビングに出かけていた。
　妻のアビーは子宮頸がんに冒されており、余命幾ばくもないことをジェイソンもアビーも知っていた。そのため、アビーは、自分が死んだあとのジェイソンをブレッシーに託そうと考える。だが、ジェイソンはいつしか、知的なジェイソンに憧れを抱く若者のデニスと関係を持つようになってしまうのだった……。

　フィリピンを代表するブリランテ・メンドーサ監督の2022年の作品である。『ローサは密告された』などで、国際的にも高く評価されるメンドーサ監督ではあるのだけれど、エロティックムービーの製作をメインとするビバフィルムで何本かの作品を続けて撮っていて、本作はそのうちの1本となる。
　が、ビバフィルムの映画としては珍しいことに、最初のセックスシーンが登場するまで映画が始まってから44分もかかっている。砂浜でのセックスシーンなのだけれど、映画の内容からするとまったく必要のないシーンで、しかも始まったと思うとあっさりと終わっている。製作会社が要求するから仕方なくセックスシーンを入れたといわんばかりの場面なのだ。
　だが、それで油断していると、途中から男同士のねちっこい絡み合いのシーンが展開されることとなる。むかしからフィリピンにはトップクラスの監督がゲイムービーを撮るという伝統があったりもするのだけれど、こういう場面に慣れていない当方としてはもう少しさらりと描いて欲しかったと思ってしまう。
　それにしても、最愛の妻が余命幾ばくもないという状況で、よくまあこの主人公は男を相手の浮気ができるよな。いや、相手が女性ならいいというわけでもないのだけれど。
　いずれにしても、ブリランテ・メンドーサほどの映画監督が、どうしてこの作品を撮ろうと思ったのか、その意図がいまいちよくわからない。正直、凡庸な作品であると思ってしまった。
　主役のジェイソンを演じているパオロ・グマバオは、テレビシリーズを中心に活動している俳優なので、ほとんど馴染みのない俳優だった。
　甘いマスクの若者デニスを演じているのは、ブリランテ・メンドーサ作品の常連のヴィンス・リロン。主な出演作に『Pula』『ヴァージンフォレスト 愛欲の奴隷(Virgin Forest)』『復讐(Resbak)』『義足のボクサー(Gensan Punch)』『ミンダナオ（Mindanao）』などがある。
　ジェイソンの妻のアビーを演じているのは『ハウスメイド　欲望のしもべ（The Housemaid）』『Revirginized』『霊媒は恋の始まり（Love the Way U Lie）』のカイリー・ヴェルゾーサ。ちょっと個性的な顔立ちの女優さんだ。
　ちなみに、タイトルの「SISID」というのは「ダイビング」という意味らしく、ダイビングのシーンが繰り返し出てくる。だけど、妻からプレゼントされた大事な水中カメラを海底に落としてしまうシーンがあるのだけれど、普通、水中カメラにはストラップをつけないか？　ストラップなしで水中カメラを海の中に持ち込むか？　かつてスキューバダイニングをやっていただけに、ささいなことが気になってしまうのだった。