2024年に観たフィリピン映画

【MALLARI】2023年

監督：ロデリック・カブリド
キャスト：ピオロ・パスクア、ＪＣ・サントス、ジャネーリア・サルヴァドール



　とんでもないホラー映画を観てしまった。3つの時代の物語が絡み合う複雑な設定なので、まずはそこを整理して紹介するようにしてみよう。

【2023年】
　医師のジョナサンは、同僚のアグネスと結婚することになっていた。だが、そのアグネスが死ぬ夢を繰り返し繰り返し観て、その死を避けるなにかが祖先から引き継がれているマガランの館にあると直感し、その何かを探すために売りに出されている館へとやってくる。
　それを迎え入れたのは、兄弟同然に育った教区司祭のルーカスだった。
　館には3枚の先祖の肖像画が飾られていた。1枚はジュアン・セベリノ・マリアリという名の教区司祭で、57人を殺害したとされている。
　1枚はドニャ・ファクンダ・マリアリ。ジュアンの母だ。
　1枚はジョンリー・マリアリ。1946年にフクバラハップの反乱のドキュメンタリー映画を撮っていた。
　ジョナサンは館を捜索していて、ジョンリーが1948年に撮影したフィルムを発見する。そのフィルムを再生すると、そこには1812年のマガランの様子が映されていた。映画カメラが発明されるのは、それよりもずっと後だというのに。しかも、そのフィルムの中でジョンリーは、ジョナサンに向かって危険を知らせるのだった。
　一方、マガランの村では、連続殺人が発生していた。

【1948年】
　フクバラハップの反乱のドキュメンタリー映画を撮るために、先祖から引き継がれているマガランの館にやってきたジョンリーは、村で大量殺人事件が発生していることを知る。以前からマリアリ家にはなにか謎が秘められていると感じていたジョンリーは、その大量殺人事件が自分の先祖に関係するのではと疑い、調査に乗り出す。
　ところが、夢の中で1812年にタイムスリップし、そこで未来から同じように時間を超えてきた少年に出会う。その少年こそは、ジョンリーの孫のジョナサンだった。2人は夢をコントロールして時を超える能力の持ち主だったのだ。
　1948年に戻ったジョンリーは、カメラを持ってふたたび1812年に向かい、そこで先祖のジュアンが邪悪な存在にとりこまれている映像を撮影し、子孫のジョナサンにむけて危険を知らせるメッセージをフィルムに残すのだった。
　だが、何者かに妻のフェリシティが連れ去られ、館の中の秘密の部屋にとんでもない存在が潜んでいたことを知るのだった。

【1812年】
　マガランの教区司祭となったジュアンは、母親のドニャ・ファクンダを伴って村へとやってくる。だが、館をとりしきる家政婦頭のマリア・カパックは、悪魔を崇拝していた。マリアは家政婦のニエベスとともにドニャを秘密の部屋に連れ込み、悪魔の儀式をとりおこない、ドニャの体内に邪悪な生き物が入り込んでしまう。それを知ったジュアンは、愛する母を救うには人間の内臓を食べさせなければならないと告げられ、苦悩したあげくにその存在が害悪とみなされるような人間を殺害し、その内臓をマリアに渡すのだった。
　だが、そのことによってドニャは不死の怪物と変えられ、どんなに死を願っても死ぬことのできない存在となってしまう。そして、その母のためにジュアンは殺人を繰り返すこととなるのだった。
　連続する殺人事件に、村の住民たちはいっせいに村から逃げだそうとするのだが、その混乱のさなかにカメラを抱えたジョンリーが現れるのだった。

　というわけで、この3つの時代の物語がどんどん複雑に絡み合っていく。時代を越えて生き続けるドニャ（死を願いながらも死ぬことができない悲哀。彼女がマナナンガルと呼ばれる化け物に変貌するシーンは、まったく予想していなかっただけにめちゃくちゃびっくりした）。悪魔を崇拝し、ドニャを守り続けるカパックの一族（誰がこのカパックの血を継ぐ者なのかが、なかなか衝撃的だ）。真実を探るために夢をコントロールして時代を越えるジョンリーとジョナサン。カパックに捉えられた妻を救うためにジョンリーが選んだ驚愕の選択。そして、死に瀕した婚約者を救うためにジョナサンがとった行動。
　途中からは、驚愕の展開の連続で、とにかく圧倒される。そもそも、悪魔崇拝をテーマにしたホラー映画でありながら、3つの時代を行ったり来たりするような設定をよくぞ思いついたものだ。
　このとんでもない脚本を書いたのはエリセ・ジョソン（Elisse Joson）。本作と同時期に公開されてフィリピン映画の興収記録を塗り替えた『Rewind』の脚本家でもある。他に、『Halik sa hangin』という驚愕の設定のホラー映画の脚本を書いていたりもする。やはり、その設定のとんでもなさにびっくりさせられた『Hellcome Home』というホラー映画の原案を担当していたりもする。いやあ、すごい脚本家がいたものだ。
　ちなみに、1812年のパートに登場してくるジュアン・セベリノ・マリアリという司祭は、スペイン植民地時代のパンパンガ州マガランで教区司祭を務めていた実在の人物で、フィリピンの記録に残る最初の連続殺人犯である。1826年に殺人が露見し、逮捕、投獄され、それまでに57人を殺害したと伝えられている。1940年に絞首刑に処された。
　母親が呪われていると信じていて、それが殺人の動機となったらしいので、そうした実際にあった事件をベースに脚本が組み立てられたのだろう。

　ジュアン、ジョンリー、ジョナサンの3役を演じているのは『牢獄処刑人』『停止』などのピオロ・パスクア（Piolo Pascual）。
　ジョナサンの婚約者のアグネスを演じているのが『My Fairy Tail Love Story』のジャネーリア・サルヴァドール（Janella Salvador）。
　ルーカスを演じているのが『モーテル・アカシア』『アルター・ミー：心に耳を傾けて』のＪＣ・サントス（JC Santos）。
　監督はキム・チウ主演のホラー映画『U-Turn』、ジョディ・サンタ・マリア主演のホラー映画『Clarita』などのロデリック・カブリド（Roderick Cabrido）。もともとは、ドキュメンタリー映画のプロデューサーとして活躍していた人らしい。
　これは、日本語字幕を入れて日本で劇場公開してもいいのではないだろうか。それだけの価値のある映画だと思うぞ。