2023年に観たフィリピン映画

【GIRL FRIDAY】2022年

監督：ジョエル・ラマンガン
キャスト：アンジェリ・カーン、ジェラ・クエンカ、ジェイ・マナロ


　州議会議員であるフレディ・イバスコ（ジェイ・マナロ／Jay Manalo）は、州知事をめざす選挙に立候補し、従兄弟のアントニオ（ジム・ペバンコ／Jim Pebanco）、妻のアモール（アンジェリ・カーン／Angeli Khang）はその選挙活動に邁進していた。だが、セックス中毒ともいうべき性癖をもつフレディは、自宅に複数の女性を連れ込んでは愛欲のかぎりを尽くしていた。妻のアモールがその場に乗り込んでも、反省するどころか「お前が現在の生活を送っていられるのはオレのおかげで、なんだったら離婚してもいいんだぞ」と開き直る。
　一方、アントニオが経営する牧場で働くジョジョ（マッシモ・スコフィールド／Massimo Scofield）は、牧場の牛を盗んで売りさばこうとして警察に逮捕されてしまう。なんとかジョジョを刑務所から出そうと妻のカルメラ（ジェラ・クエンカ／Jela Cuenca）はアントニオに頼み込むのだが相手にされない。だが、そのカルメラを見たアモールは、カルメラが夫の好みのタイプであるということを見抜き、カルメラに大金とジョジョの釈放を条件に、フレディのセックスの相手をするようにもちかける。最初はその申し出をはねつけるカルメラだったが、アモールによってジョジョが独房に移されたことを知り、アモールの提案を受け入れるのだった。そして、アモールはカルメラを最高級の女に仕立て上げて、フレディの前に連れ出す。すっかりカルメラを気に入ったフレディは、ふたりをベッドに連れ込んで3人での激しいセックスを繰り広げ、それをきっかけに妻のことを認めるようになったかと思われたのだが……。

　幾多の名作を生み出してきた名匠ジョエル・ラマンガン監督（Joel Lamangan）の作品なのだけれど、ビバフィルムでエロティックな映画を撮るとなると、こういう作品を生み出してしまうのかと、思わず溜息をついてしまった。セックスシーンは、レズビアンあり、3Pありで、かなり力が入っている。なかなかエッチなシーンが続き、セクシームービーとしては充分だろう。
　だけど、なにもジョエル・ラマンガンがこんな映画を撮らなくてもいいじゃないかと言いたくもなる。もっと、感情をゆさぶってくるドラマティックな映画をいくらでも撮ってきた監督なのに。
　脚本も、完全にこの手のストーリーのパターン通りでしかなく、完全に予想通りに展開していく。アモールがフレディを罠にかけるためにカルメラを連れ込んだのだと思って、どういう罠なのだろうと思っていたら、3Pの仲間に入れてフレディのご機嫌を伺うためと分かったときには、実にガッカリしてしまった。

　フレディを演じるジェイ・マナロは、このところビバフィルムの映画に出まくっている男優で、とにかく顔つきが濃い。ちょっと濃すぎて、ひいてしまうほどだ。香港でいうなら、ラウ・チンワン系の顔なのである。ラウ・チンワンの場合は、その濃い顔つきでありながら、せつない男心などの微妙なニュアンスをみごとに表現してくれるのだけれど、ジェイ・マナロが演じるのはひたすら強引で傲慢な男ばかりだったりする。ま、それ以外の役のオファーもないんだろうなあ。
　フレディの妻のアモールを演じているのは、『Virgin Forest』のアンジェリ・カーン。ちょっとロリの入った可愛い顔でありながら、金持ちの高慢な役を演じているのが実にはまっている。しかも、本作ではレズビアンシーンまで熱演していて、アンジェリ・カーンを楽しむ映画としては大満足と言うべきだろう。
　そのアンジェリ・カーンのレズビアンの相手、カルメラを演じているのは同じくジョエル・ラマンガン監督の『Island of Desire』にも出ていたジェラ・クエンカ。やはり、ビバフィルムのエロティック路線の映画に次々と出ている。

　しかし、こういうエロティックな映画ばかりが作られるという現在のフィリピン映画の現状は、あまりにもいびつとしかいいようがない。もっと多彩な映画の中にエロティックな映画があるというのならいいのだけれど、いまは公開される映画の大半がこの手の映画だったりするのだから。
　ちなみに、昨年フィリピンで公開された映画の本数は全部で110本。そのうち68本がビバフィルム製作の映画で、それ以外は映画祭で上映されたインデペンデント映画などだったりする。力のある映画監督であっても、ビバフィルム以外で映画を撮ることが実に難しくなっているというのが、現状なのだろう。