GARAKUTA

2023年に観たフィリピン映画

【Labyu with an Accent】2022年

監督：ロデル・Ｐ・ナシアンセノ、マル・セヴィリア
キャスト：ココ・マルティン、ジョディ・サンタ・マリア

　アメリカの上流階級に暮らすトリシア（ジョディ・サンタ・マリア／Jodi Sta. Maria）は、結婚を間近に控えていたのだが、その結婚相手が浮気をしている現場に遭遇してしまう。堅物でビジネス優先の父は、ビジネス関係のある結婚相手との繋がりを重視し、「男なんてのはそんなものだ」と言って結婚を強行しようとする。やむなくトリシアは、祖母の暮らすフィリピンへと逃げ出す。
　再会した幼なじみの友人に「失恋を癒やすのはこれがいちばん」と、トリシアは男性ストリップクラブへ連れ出される。そこでトリシアが出会ったのが、ストリッパーのガボ（ココ・マルティン／Coco Martin）だった。やがて、恋に落ちるトリシアとガボだったが、父親から呼び出されたトリシアは、ガボとの恋を諦めてアメリカへと戻っていく。
　だが、トリシアを諦めきれないガボは、トリシアを追ってアメリカに渡る。トリシアはそんなガボを家族に紹介するのだが、父親の猛反対にあい、ついには親子の縁を切るという父に背を向けて、トリシアは家を出てガボとの生活を選ぶのだった。
　一方のガボも、アメリカで暮らしていた親戚の手助けでレストランで働きだすのだが、英語ができないために仕事はうまくいかず、そのうえ不法就労で移民税関捜査局に通報されてしまう。自分にトリシアの面倒をみられることを証明しようといくら頑張っても、アメリカはガボを受け入れようとはしないのだった。
　疲れ果てたガボは、ついに「自分では君を幸せにできない。親のもとに帰った方が君のためだ」と言って、トリシアを親の元に返し、自分は失意とともにフィリピンに帰っていくのだったが……。

　うーん……、ストリップクラブで出会って恋に落ちるという展開に無理がありすぎ。というか、どのタイミングでどうして恋に落ちたのかがよく分からない。また、アメリカで家を飛び出したトリシアが、ガボと暮らすために高級マンションを用意する展開にも「いったい、この女は何を考えているんだ？」と疑問を抱かざるをえない。当然、家賃が払えなくなってガボを追い詰めることになるのだけれど。そもそも、大家族を抱えて必死に働いていたガボに、どうしてアメリカに行く飛行機代が用意できたんだ。というか、アメリカですべて失ったガボは、帰りの飛行機代をどうやって工面したんだ。そして、ラストシーンがストリップクラブの舞台の上って、どう考えてもおかしいだろ。映画的には絵になるだろうけれど、ふつうはその場所を選ばないぞ。
　というわけで、脚本のデキにかなり問題があるのだけれど、それでもココ・マルティンとジョディ・サンタ・マリアというスターの共演を楽しめるというだけで、フィリピン映画ファンの自分は評価が甘くなってしまうのである。

　主演のココ・マルティンはフィリピンのトップクラスの人気スターで、2015年から始まったテレビシリーズ「Ang probinsyano」が1676話でようやく完結したと思ったら、即座に新たなテレビシリーズ「Batang Quiapo」に主演しており、まったく休む暇がないはず。なにしろ、フィリピンのテレビドラマは月曜日から金曜日まで毎日放送されているので、めちゃくちゃ大変なのだ。にもかかわらず、その合間に映画にも主演し、さらには自分で脚本を書き監督もするという才人なのである。まったくもって、どこにそんな時間があるのやら。
　本作も、ココ・マルティンが本名のロデル・Ｐ・ナシアンセノ（Rodel P. Nacianceno）名義で、マル・セヴィリア（Malu Sevilla）と共同で監督している。マル・セヴィリアというのは、ココ・マルティン主演のテレビシリーズ「Ang probinsyano」を監督しており、そのつながりで本作の監督に起用されたのだろう。
　ココ・マルティンは、まだ新人の頃にブリランテ・メンドーサ監督の『Foster Child（フォスター・チャイルド）』『Serbis（サービス）』『Kinatay（キナタイマニラ・アンダーグラウンド）』といった作品に出ているのだが、本格的にブレイクしたのはサラ・ヘロニモと共演した2014年の『Maybe This Time』あたりからか。この頃のココ・マルティンはぽちゃぽちゃっとした顔つきで、33歳とは思えないなんとも可愛らしい顔つきをしている。その後、アクションドラマを経てマッチョな肉体と精悍な顔つきに変貌しているのだけれど、それでも本作のあけっぴろげの笑顔などにはなんともいえないあどけなさがあって、そのアンバランスさが人気の理由なのだろう。
　対するジョディ・サンタ・マリアも芸歴の長い人気女優だが、このところテレビシリーズの主演が続いていたので、映画に出るのは2019年のホラー映画『Clarita』以来となる。僕が観た作品では『The Achy Breaky Hearts』『All You Need Is Pag-ibig』『Maria Leonora Teresa』『Noon at ngayon（昔と今）』『Bagong buwan（光、新たに）』などがあるが、いちばんの怪作はターザンのパロディ映画『Tar-San』だろう。