2023年に観たフィリピン映画

【Partners in Crime】2022年

監督：キャシー・ガルシア・モリーナ
キャスト：ヴァイス・ガンダ、イヴァナ・アラウィ



　みんなをハッピーにすることだったらどんな仕事も引き受けるジャック（ヴァイス・ガンダ／Vice Ganda）。ところが、過労から声帯が腫れ上がって声が出なくなってしまい、医者から2週間の休憩を命じられる。しかし、じっとしていることのできないジャック、たまたま出会ったバルバラ（イヴァナ・アラウィ／IVANA ALAWI）と意気投合し、パートナーとして仕事を手伝ってもらうことになる。
　そんな2人の活躍に注目したテレビ局から、出演の話が飛び込んでくる。
　ジャックはバルバラとふたりセットのつもりでいたのだが、いざ局に行ってみると、呼ばれていたのはジャックだけだった。
　そのことがきっかけでいがみ合うことになったふたりは、超大金持ちドン・ビルのインタビューをどっちが成功させるかという勝負をすることになってしまう。なんとかドン・ビルの誕生パーティに潜り込むことに成功した2人だったが、ようやく見つけたドン・ビルは何者かに殺されていて、殺害犯から屋敷の中に隠された3つのコインを手に入れることを強要されることになってしまうのだが……。

　2022年のクリスマスシーズンに開催されたメトロマニラ・フィルム・フェスティバルにエントリーされた作品で、賞にはまったく縁がなかったものの、観客動員数ではぶっちぎりのトップとなった作品だ。
　かつて、クリスマスシーズンになればフィリピンでは必ずウェン・Ｖ・デラマス監督＆ヴァイス・ガンダ主演のゴールデンコンビによるコメディ映画が公開され、毎年の興収ベストワンになる大ヒットを記録するという時代があった。それほど、フィリピンの大衆はヴァイス・ガンダ主演のコメディ映画を愛していたのだ。ところが、デラマス監督が2016年に心臓発作で亡くなり、別の監督が引き継いでヴァイス・ガンダ主演のコメディ映画を作ったりしていたのだけれど、2018年にはとうとう興収トップの座をキャシー・ガルシア・モリーナ監督の『The Hows of Us』に明け渡し、2019年の『The Mall, the Merrier!』を最後にヴァイス・ガンダ主演のクリスマス映画は途絶えてしまう。
　それがパンデミックを挟んで久しぶりに復活したのである。しかも、監督はヒット映画を生み出し続けているキャシー・ガルシア・モリーナ。そりゃ、フィリピンの人たちが劇場に押しかけるのもあたりまえだろう。
　ところがいざ観てみると、脚本はとっちらかっているし、くだらないギャグは笑えないしで、とてもじゃないがヒットメーカー、キャシー・ガルシア・モリーナ監督の作品とは思えないデキの悪さ。おそらく、ウェン・Ｖ・デラマス監督の路線を引き継いだコメディを撮ろうと思ったのだろう。だけど、モリーナ監督とデラマス監督の作風はあまりに違いすぎる。デラマス風のコメディを撮ろうとしたがために、モリーナ監督のよさがかけらたりともない作品となってしまっていた。なにしろデラマス監督のコメディというのは、幼稚園児がはしゃぎまわるかのようなレベルの作品なのだ。それを、大人の恋愛映画を得意とするモリーナ監督が撮ろうとして撮れるわけがない。何ヶ所か、いかにもモリーナ監督らしいしっとりとしたシーンがあったのだけれど、それが完全に作品から浮いてしまっている。モリーナ監督が、ヴァイス・ガンダの新しい魅力を引き出してくれるものと期待していたのだけれど、なんともガッカリな結果となってしまっている。
　IMDbでの得点を観ると、10点満点を入れている人が30％、1点を入れている人が21％で、平均は4.7点。こんな映画でも10点を入れている人が30％もいるというところに、どれだけフィリピンの人々がクリスマスシーズンにヴァイス・ガンダのコメディを観たがっていたかが反映されているようで、実に興味深い。

　今回ヒロインを演じているイヴァナ・アラウィという女優は初めて観たのだけれど、実に可愛らしくて魅力的な女優だ。長編映画は本作が4作目となるが、主役級での起用は今回が初めて。これから売れてくる女優なのではないだろうか。
　その他に、エンチョン・ディー（Enchong Dee）、キャンディ・パンギリナン（Candy Pangilinan）といった人気俳優が脇役として登場してきている。