2023年に観たフィリピン映画

【U-Turn】2020年

監督：ロデリック・カブリド
キャスト：キム・チウ、ＪＭ・デ・グズマン



　ジャーナリストとしてヒットを飛ばそうともがいているドナ（キム・チウ／Kim Chiu）。上司からは、読者が求めているのは上品な記事ではなく、過激な記事なのだとプレッシャーをかけられ、女性と幼い娘が悲惨な死を遂げた交通事故の現場で人としてやってはいけない領域に踏み込んでしまう。遺体を動かして、読者に衝撃を与える写真を作り出してしまったのだ。
　その報道のヒットにより評価の高まった彼女が次に取り組んだのは、連続する自殺者の取材だった。そこでも遺体を動かして撮影するという違法な取材をしてしまうドナだったが、やがて一連の自殺の背後にはひとつの共通点があることが判明する。彼女が先に取材した交通事故の現場で、Ｕターンを禁止する柵を動かしてＵターンをした人間が次々と不審な自殺を遂げていたのだった。
　さらには、彼女の双子の弟のエリックまでもがそこでＵターンをしたことで、不審な自殺を遂げてしまう。弟の自殺に疑問を抱いたドナは真相究明のために学生時代の知人である警察官のケヴィン（ＪＭ・デ・グズマン／JM de Guzman）に協力を求め、やがて恐るべき真実に辿り着くのだった……。

　2016年のインド映画『U Turn』のリメイクである。IMDBの評価を見ると3620人が投票をして10点満点の7.4点という高い評価となっている。リメイクするだけの魅力のある作品なのだろう。
　ところがフィリピン版『U-Turn』はというと、4.4点といまいちふるわない。得点の詳細を見ると、投票者の20％が1点をつけている。さすがにそこまでひどくはないだろうと思うのだけれど、評価が低い理由に納得がいかないわけでもない。
　じゃっかんネタバレになってしまうのだけれど、Ｕターン禁止の柵を何者かが動かして、そこにスクーターで突っ込んで死亡した母娘が怨霊となって、そこでＵターンをした人間に襲いかかっていたから、というのがＵターンをした人間が不審死を続ける理由だったのである。それだったら、交通事故現場から彼女を見捨てて逃げた目撃者を呪えよとか、死体を動かしてセンセーショナルな写真を撮ったドナを襲えよとか思うけどね。
　このあたりの展開に説得力がない。まあ、亡霊に論理的な行動を求めても仕方がないのだけれど。
　しかも、その怨霊の造形がいまいち。「スリラー」のマイケル・ジャクソンかよという程度のメーキャップに、血をふりかけてみましたという感じ。確かに、血まみれの少女が部屋の隅からじっと覗いている映像などはドキリとさせられるけれど、クライマックスでは怨霊相手の鬼ごっこのような展開になって、ガッカリさせられる。物陰に隠れたぐらいで見つけられなくなる程度の怨霊なのかよ。
　とまあ、残念な評価となってしまうのだけれど、特定の場所でＵターンをした人間がなぜか呪われてしまうのかという設定にはドキドキさせられた。ただし、それはこの映画のオリジナルのアイデアではなく、リメイクのもととなったインド映画にあったアイデアなのだろうけれど。

　監督のロデリック・カブリド（Roderick Cabrido）は、もともとドキュメンタリー映画のプロデューサーとして高く評価されていた人で、その後、こうした一般の映画のプロデュースや監督業に乗り出した人物であるようだ。

　主演のキム・チウは中華系フィリピン人で、『Bride for Rent』『PAST TENSE』『DOTGA: Da One That Ghost Away』などのコミカルで陽性のキャラクターが印象に強いのだけれど、一方で『The Ghost Bride』『Etiquette for Mistresses』などではシリアスなキャラクターを演じていたりもする。本作は明らかにその後者なわけだけれど、この女優の本領は前者にあると思うんだよなあ。
　警察官ケヴィンを演じているＪＭ・デ・グズマンは『運命というもの（That Thing Called Tadhana）』でも人のいいキャラクターを演じていたけれど、本作でもやたらとドナに便宜をはかる人のいい警察官を演じている。人のよさゆえに巻き込まれる役がぴったりという雰囲気を持っている。
　ドナの恋人のロビンを演じているのは、ボーイズラブのテレビシリーズ『Hello, Stranger』でブレイクしたトニー・ラブルスカ（Tony Labrusca）。
　あと、『My Fairy Tail Love Story』のジャネーリア・サルヴァドール（Janella Salvador）も出ているようなのだけれど、いったいどこに出ていたのだろう？