2023年に観たフィリピン映画

【ロシアへ、愛と共に（To Russia with Love）】2022年

監督：ヴェロニカ・ヴェラスコ
キャスト：ジェラルド・アンダーソン、エレナ・コズロヴァ



　自然ゆたかな郊外の町でチョコレートショップを営んでいるデニス（ジェラルド・アンダーソン／Gerald Anderson）。母親（イサイ・アルヴァレス／Isay Alvarez）は、いつまでもガールフレンドのひとりもいない彼に「さっさと恋人を作って結婚しなさい」とせっつくのだけれど、なかなかそんなチャンスもない。だが、カヌーでの渓流くだりに参加した際に、ロシアから旅行できていたオクサナ（エレナ・コズロヴァ／Elena Kozlova）という女性と親しくなり、彼女の滞在中、あちこちを案内することになる。いつしか彼女に対する思慕の念の湧いてくるデニスだったが、しょせんオクサナは旅行者にすぎず、ロシアへと帰って行ってしまう。
　が、母親から「このままでいいの！」と問い詰められ、ロシアまでオクサナを追いかけていくことに。だが、そこで待ち構えていたのは、ロシアのマッチョ男を絵に描いたようなオクサナの父親、ヒョードルだった。なんとかヒョードルに気に入られようと、無理にウォッカを飲んだり、熊狩りにつきあったりするデニスだったが……。

　邦題からして「いかにもつまらなそう」という印象を受けていたのだけれど、まったく期待していなかった分、楽しめたかもしれない。正直なところ、標準をやや下回るレベルのラブコメディではあったのだけれど。しかしこのタイトル、当然ながら『007/危機一発　ロシアより愛をこめて』のパロディなのだから、邦題は『ロシアへ愛をこめて』でいいだろうに、なんで『ロシアへ、愛と共に』という邦題になるかなあ。

　主人公のジェラルド・アンダーソンは、常ににこやかな笑みをたやさない人の良さそうなキャラクターを演じている役者なのだけれど、本作もまさにそのパターン。繊細な演技のできる名優でもあるんだけど、なかなか定着したイメージに沿ったキャラクターばかりを演じさせられているといった感じがする。
　一方のヒロインを演じているエレナ・コズロヴァはというと、マニラを拠点として活動しているロシア人女優であるらしい。10代からロシアでファッションモデルとして活動していた彼女は、モデルの仕事でフィリピンに滞在している間に中国系フィリピン人の男性と恋に落ち、そのままフィリピンに居着いてしまったとのこと。IMDBによると、本作以前に2本の映画に出演しているものの、本格的な映画出演は本作が初めてということのようだ。当然ながら、それまでフィリピン映画を観たことはほとんどなく、ジェラルド・アンダーソンが誰かも知らなかったのだという。
　後半はロシアが舞台となるために、ほとんどフィリピン人俳優は出てこないのだけれど、なぜかそこにカカイ・バウティスタ（Kakai Bautista）が登場してくる。相変わらずエキセントリックなキャラクターを演じていて、ロシア人の若い夫にベタ惚れされていながら、ウォッカで泥酔したデニスにちょっかいを出そうとする。当然、ふたりの間には何もおこらないのだけれど、そのことでオクサナが誤解してトラブルに発展するという、実にお約束の展開となるのだ。

　とまあ、そこそこ楽しいけれど、ロシアロケをするほどの作品じゃないよなあというのが正直な感想。だけど、そう思って侮っていると、最後にとんでもない設定が待ち構えていてひっくり返る。なるほど、それなら『To Russia with Love』という007をもじったタイトルにしても許されるよな、という驚きの設定なのだけれど、でも、それがさほど効果をあげていないというのが本作の悲しいところ。驚くよりも前に、ちょっとあきれてしまったというのが正直なところなのだ。
　ちなみに、オクサナがタガログ語をほとんど喋れないという設定なので、会話のほとんどは英語で交わされ。だけど、舞台がロシアとなってからも使われる言語はほとんど英語のままで、ロシア人同士でも英語で会話をしていたりする。それって、おかしいと思うんだけどなあ。

　監督はヴェロニカ・ヴェラスコ（Veronica Velasco）。何本かタイトルを知っている作品を監督してはいるが、実際に作品を観るのは今回が初めて。それほど、話題になった作品を監督してきたというわけではなさそうだ。