フィリピン映画を観る方法 Part3

　かつては、日本国内にある在日フィリピン人向けの食材店の片隅に置いてある違法コピーをしたDVDを買ってきたり、アメリカのAmazonからDVDを取り寄せてみたり、あるいは日本国内にあるフィリピン音楽CD、フィリピン映画DVDを専門に扱っているオンラインショップ【Mia music&Books】でDVDを買ったりと、涙ぐましい努力をしてフィリピン映画を観てきた。だが、ここにきてだいぶ様相が変わってきた。
　まず、フィリピン国内でDVDのリリースがほとんどなくなってしまったらしい。映画館で見逃した映画は、ネット配信で観るという習慣が根付いたものと思われる。とりわけ、新型コロナウイルスの蔓延により映画館が閉鎖されていたために、映画配給各社はネット配信に力を入れるようになり、日本から観るにもこのネット配信を利用せざるを得ないという状況なのだ。

　日本国内の配信業者では、【Netflix】がもっともフィリピン映画を多く扱っているので、日本語字幕付きで観ようと思ったら、まずは【Netflix】の利用をお勧めしたい。ただし、ひととおり観てしまうと、新作の配信は忘れた頃にポツポツあるという程度。しかも、ぜんぜん聞いたことのない映画が配信開始となったりしているので、新作に関してはかなり寂しい状況である。ミカイル・レッド監督の『アリサカ』が、東京国際映画祭での上映からほとんど日をおかずに配信されたが、それは例外中の例外と言っていいだろう。
　意外なのは、【アマゾンプライムビデオ】でもけっこうフィリピン映画が観られるということ。日本で公開されたフィリピン映画の配信がある以外にも、意外とフィリピン映画があったりするのだ。もっとも、音声が英語であるとか、日本語字幕もしくは英語字幕がついているとか大嘘が書かれていたりするけれど、いざ観てみると当然ながらタガログ語で英語字幕はなかったりする。あるいは、日本語字幕がついていても、英語字幕を自動翻訳したというめちゃくちゃな日本語字幕だったりもするので、過大な期待は禁物である。
　【アマゾンプライムビデオ】以上に意外なのが【YouTube】。けっこうフィリピン映画の無料配信というのがあったりするのだ。中には海賊版もあるけれど、正規の配信業者が配信している映画もたくさんあるので、ぜひチェックしてみてほしい。

　あとは、フィリピンの配信業者を利用することになるのだけれど、その中でもっとも敷居が低いのは、スターシネマ系列の【iWantTFC】だろう。ここは在日フィリピン人に対応するための運営もおこなっており、日本のクレジットカードで簡単に手続きができ、月額900円でいくらでもフィリピン映画を観ることができる。
　もっとも、英語字幕のついていない映画も多く、しかも新作映画の本数がそれほど多くないのが残念なところ。フィリピン最大手の映画制作会社なのだから、もっと新作映画がたくさん配信されそうなものだけれど、実はこのところ、スターシネマではほとんど新作映画が作られていないのだ。なにせ、昨年フィリピンで公開された新作映画80本のうち、スターシネマの作品はたったの5本しかないのである。いやはや、どうしてしまったのだろう？
　というわけで、新作に関してはちょいと期待薄ではあるのだけれど、フィリピン映画の名作と呼ばれる作品が多く揃っているのが【iWantTFC】なので、まずはここをオススメしたい。

　一方、新作をがんがん作って、がんがん配信しているのがビバフィルム系列の【Vivamax】だ。昨年、ビバフィルムが公開した新作映画の本数はなんと37本。めちゃくちゃ元気に映画を撮っている。
　スターシネマがラブロマンスをメインに作っているのに対して、最近のビバフィルムはエロティックサスペンスがやたらと多かったりするのだけれど、ホラー、コメディ、アクションなどといったジャンルの映画もけっこうあるので、あれこれ楽しむことができる。まあ、資本力の差なのか、スターシネマほどの大作映画は少なく、いささか小ぶりな作品が多いことは否めないのだけれど。
　で、この【Vivamax】だけれど、実は日本から申し込もうと思うといささか敷居が高い。まず、日本のクレジットカードは弾かれてしまう。おそらく、日本で発行されているクレジットカードが、AVS（Address Verification Service）という本人確認システムを採用していないのが理由なのだろうと思うのだけれど。
　他に、Lazada、Shopee、JRFMARTといった通販サイトを通じてバウチャー（利用券）を購入できると判明したのだけれど、このどれもフィリピン国内に住所がないと利用できなかった。
　で、あれこれ探し回って、ようやくFacebook内に「Vivamax Japan」というサイトを発見し、ここで教えてもらった郵便口座に振込をすることでバウチャーを購入することができたのだった。
　なお、僕が購入したのは1200円の「1ヶ月間の利用券」なのだけれど、これだとずるずると毎月の引き落としがないので、非常に助かる。なにせ、【iWantTFC】では、たまにしか利用していないのに、ずるずると900円を支払い続けているのだから。

　フィリピンの大手の映画制作会社には他にリーガル・エンターティンメントがあるのだけれど、こちらに関しては映画配信サイトを見つけることはできなかった。ホラー映画とかを撮っていたりするので気にはなっているのだけれど。ま、リーガル・エンターティンメントが昨年公開した映画は1本しかないので、配信に力を入れるまでもないのだろう。
　なお、リーガル・エンターティンメントでは過去の作品をDVDで販売していたりもするのだけれど、残念ながら【Vivamax】と同様、日本のクレジットカードは受けつけてもらえないので、ここから購入したりはできないのだった。

　大手の３社に関しては以上のような状況なのだけれど、問題はスターシネマ、ビバフィルム以外の作品を観るすべがほとんどないということ。たとえば、大阪アジアン映画祭で上映されたダニエル・パディリア主演の『Whether the Weather Is Fine』を観たいと思ってさんざん探したのだけれど、とうとう日本から観られる配信サイトを見つけることはできなかった。この映画を配信しているサイトがないわけではない。たとえば、【ktx.ph】【Upstream】といったサイトで配信されているのである。なんとか観られないものかとトライしたのだけれど、いずれも日本からの視聴は許可されていないのだった。
　スターシネマがおとなしくなってしまった分、マイナーな新興勢力が台頭してきている気配のフィリピン映画界なのだけれど、それらの映画をどうやってみればいいのか、いささか悩ましい状況なのである。

（2022年4月8日）