2022年に観たフィリピン映画

【Baby Tsina】1984年

監督：マリルー・ディアス＝アバヤ
キャスト：ヴィルマ・サントス、フィリップ・サルヴァドール



　ナイトクラブ「プッシー･キャット」のホステスとして刹那的に生きているエレナ（ヴィルマ・サントス／Vilma Santos）。彼女は、見た目が中国人に似ているということから「ベイビー・チナ」と呼ばれていた。
　ある日、エレナは店に現れた新興ギャング団のリーダー、ロイ（フィリップ・サルヴァドール／Phillip Salvador）と出会い、たちまち恋に落ちる。ロイはフィリピンにいることに限界を感じていて、アメリカに渡ることを画策していたのだが、それにエレナを誘う。
　一方、「プッシー･キャット」には、その地区を縄張りとするギャング団のボス、トト（ジョニー・デルガド／Johnny Delgado）が繰り返しみかじめ料を取り立てるために現れていたが、店はその支払いを拒否していた。そのため、店はトトたちの襲撃にあい、何人もが撃ち殺されてしまう。さらには、その葬儀の場を襲ったトトにエレナは誘拐され、集団レイプの餌食にされてしまう。
　それに怒り狂ったロイは配下を率いてトトを射殺するが、今度は警察に追われる身となり、エレナとともにエレナの幼なじみの弁護士、ジョージ（ディンド・フェルナンド／Dindo Fernando）のもとに逃げ込む。ジョージは繰り返し自首を勧めるが、ふたりはそれを受け入れず、ついにはロイは警察に囲まれて射殺され、エレナも裁判にかけられることとなる。
　ジョージがエレナの弁護を引き受け、すべては自己防衛のためで決して復讐のためではないと主張するようにエレナを説得するのだが、「自分は間違ったことをしていない。自分のためにも嘘をつきたくない」と決意したエレナは、裁判の場で事実を叫び、死刑の判決が出てしまう。
　刑務所に収監されるエレナ。そこでは牢名主のグレンダが女王として君臨していたのだが、エレナはなんとしてもグレンダに膝を折ろうとはしなかった。
　妊娠していたエレナは、その刑務所内で女児を出産する。赤ん坊を母に託し、グレンダと対立しながらも仲間を増やしていくエレナ。そして、クリスマスの夜、とうとう仲間たちと脱獄を実行するのだが、実家に赤ん坊を受け取りに現れたところで再び警察につかまり、牢獄に戻されてしまう。
　牢獄では相変わらずグレンダが君臨しているのだが、そのグレンダを相手に力強く人間の尊厳を主張し、他の女囚たちのエレナを支持する大きな拍手に包まれるのだった。

　すでに『Moral』『カルナル／愛の不条理（Karnal）』といった作品で高い評価を受けていたマリルー・ディアス・アバヤ監督（MARILOU DIAZ-ABAYA）の8本目の作品である。
　IMDbをみると1時間50分となっているのだが、僕が実際に観た動画は2時間12分あった。ストーリーがどんどん転がっていくので、ストーリーを紹介するのにやたらと苦労したが、それでいてひとつひとつの場面が実に丁寧に描かれている。例えば、ジョージのもとに逃げ込んだあとでのエレナとジョージとの会話など、かみ合わない二人の生き方がそこで浮き彫りになってきて、そのあとの裁判での展開にみごとにつながっていく。また、さりげなくタガログバージョンでの「夢は夜ひらく」が流れていたり、テレビにアポロ11号の着陸の実況中継が映っていたりと、時代背景もしっかりと描かれている。さすがは、マリルー・ディアス・アバヤ監督。
　脚本は名脚本家としてすでに伝説的な人物と化しているリカルド・リー。アバヤ監督の『ブルータル／暴行（Brutal）』『カルナル／愛の不条理（Karnal）』『Moral』なども彼の脚本だ。実はこの脚本は、1971年に殺人罪で死刑判決を受けた女性が、何度も控訴し、ついには7年後に最高裁判決で無罪を言い渡されて刑務所から釈放されたという実話をベースにしている。実際にこの女性は見た目が中国人に似ているということから「ベイビー・チナ」と呼ばれていたらしい。映画もラストに「1978年12月12日に最高裁判決で無罪を言い渡された」というクレジットが入り、囚人たちから祝福された出所する場面で終わっている。

　主演のヴィルマ・サントスとフィリップ・サルヴァドールは、いまさら説明の要もないほどのフィリピンのトップスター。

　前にも何度も書いていることなのだけれど、僕はこの映画を公開時のマニラで観ている。当時一緒につるんでいた連中が「俺たち、エキストラでこの映画に出ているんだ」と言うので、みんなで観に行ったのだ。当然、タガログ語のセリフはまったく理解できずず、俳優がフィリピンを代表する大人気女優と男優の組み合わせであるなどということも知らず、それでもこの2時間を超える映画をたっぷりと楽しんだ。映画そのものも面白かったのだけれど、劇場内の他の観客の反応も楽しかった。なにしろ、脱獄シーンで他の女囚が銃で撃たれるシーンになると、いっせいに場内に悲鳴があがったりしていたのだから。
　それから36年たって、ようやく英語字幕付きで観て、ちゃんとしたストーリーを把握することができた。今回観たのはデジタル・リストア版なので、映像もすごくきれいになっていた。

　そして、僕のひいきのマリア・イザベル・ロペス（Maria Isabel Lopez）が出ているシーンも確認できた。いまでは迫力のある女優となった彼女だけれど、この頃はセクシー女優として一世を風靡していた頃。なるほど納得の登場シーンである。


予告編は見つからなかったが、マリア・イザベル・ロペスの出てくるシーンの動画があった。