2022年に観たフィリピン映画

【T2(Tenement 2)】2009年

監督：チト・Ｓ・ロニョ
キャスト：マリセル・ソリアノ、ミカ・デラ・クルーズ




　孤児の面倒を見るボランティアをしているクレア（マリセル・ソリアノ／Maricel Soriano）とエリアス（エリック・フルクトゥオソ／Eric Fructuoso）は、孤児を里親のもとに送り届けた帰りに寄った孤児院で、アンジェリ（ミカ・デラ・クルーズ／Mika Dela Cruz）という親のない少女を叔母のもとに送り届けてほしいと頼まれる。だが、その少女を車に乗せたときから、不気味なできごとが立て続けに彼女たちに襲いかかる。なにか超自然的な存在が、アンジェリを連れ去ろうとしているのだが……。
　そして、ようやくアンジェリの叔母が住むという巨大な雑居ビル（Tenement 2）に到着したとき、そのまるで迷路のような建物の中で本当の恐怖が始まるのだった！

　監督・脚本はホラー映画を得意とするチト・Ｓ・ロニョ（Chito S. Roño）。本作でも、じわりじわりと恐怖が忍び寄る描写、あるいは突然に恐怖が襲いかかるショッキングな描写など、なかなか達者なところを見せてくれている。だが、意味のよく分からない幻想的なシーンが出てきたりして、もしかして雰囲気を重視するあまり理屈が通っていないのではという気がしないでもない。もちろん、英語字幕を読み切れていないので、そのせいで理解できていない可能性もあるのだけれど。
　例えば、オープニングのシーン。夜の草原で子羊を探しに来た少年がようやく子羊を見つけて抱き上げた瞬間、どこからともなく現れた航空機が少年の頭上を飛び越えて、草原の中に突如として現れた滑走路に着陸すると、その向こう側に巨大な建物が見えてくるという実にインパクトのあるシーンで映画が始まるのだけれど、このシーンがそのあとの物語にどう絡んでくるのかがまったく分からないのだ。
　あるいは、アンジェリを送り届ける旅の途中で、クレアが夜の田舎道をひとりで歩いていると、突然、巨大な船が空中から現れて、彼女の頭上を越えていくという幻想的なシーン。これまた、実に印象的なシーンであるのだけれど、物語にどう関わるシーンなのかまったく分からないのだ。
　また、全体的に暗い画面が多く、そのために何が写っているのかよく分からないというシーンも多かった。リストアド･バージョンなので、画質はだいぶ改善されているはずではあるのだけれど。

　フィリピンのホラー映画には、よくアスワン、マナナンガルなどの土俗的な妖怪や、狼などに変身する不死の一族（Imortal）などが登場してくるのだけれど、実は本作に登場してくるのも後者の不死の一族であった。実はアンジェリは人間の父と不死の一族の母との間に生まれた子どもで、9才になったときに一族が迎えに来ることになっていたのだ。クレアはアンジェリを一族から守ろうと、巨大な雑居ビルの中をひたすら逃げ惑うのだが……。

　主役のマリセル・ソリアノは、1971年に6才で映画デビューを果たし、子役として「ダイヤモンドスター」と呼ばれるほどの人気を博し、その後はアイドルとして数多くの映画に出るという長い芸歴を持ち、現在でもコンスタントに映画に出続けている超ベテラン女優である。
　アンジェリを演じるミカ・デラ・クルーズはなんと東京生まれで、本名はMariko Nicolette Egger dela Cruzと「マリコ」という名前が入っていたりもするのだけれど、特に日本人の血が入っているというわけではない。子役で終わらずにテレビドラマなどにも出て芸能活動を続けているようだ。
　エリアス役のエリック・フルクトゥオソは、現在ではテレビドラマを中心に活躍しているが、エリック・マッティの『牢獄処刑人２（On the Job 2: The Missing 8）』にも出ているらしい。
　クレアの夫で最初の方と最後の方だけに出てきているのが『Love Is Blind』『Praybeyt Benjamin』などのセクシー男優のデレク・ラムジー。
　そして、なにより驚いたのが、回想シーンに登場してきたアンジェリの父親がジョン・ロイド・クルーズだったということ。そんな、回想シーンにしか出てこない、正直、誰が演じてもいいような役に、なんでジョン・ロイド・クルーズを起用したんだ？

　なお、エンドクレジットが終わったあとに、さらに恐怖のエピソードがつけくわえられているのだけれど、厳密に言うとこれも理屈が通らないような気がする。ま、なんのかんの文句を言いながらも、けっこう楽しめた映画ではあるのだけれど。