2021年に観たフィリピン映画

【Simplicity / ACCIDENTAL IDOLS】2018年

監督：デビッド・ハルバート、カズヒコ・パルンガオ
キャスト：メアリー・ジョイ・アポストル



　父親の経営するハンバーガーショップで働いているマリア（メアリー・ジョイ・アポストル／Mary Joy Apostol）は、5人組のチームで歌やダンスのパフォーマンスを競い合い、優勝者を選出する「ARE YOU iDOL ENOUGH!?」という人気番組に出場することになる。メンバーは同僚のベス（Riva Quenety）、ホームレスのエンジェル（Kelly Welt）、交通整理係の警察官シェリー（Alexa Miro）、シェリーの義理の妹で日本人とのハーフのハナ（Nami Onuma）。マリアたちは優勝をめざしてステージに立ち、なんとか予選を突破するのだが……。

　普通はここで5人にさまざまな障害が立ちふさがり、物語を盛り上げるのだけれど、この映画に限ってはそうしたドラマはほとんどない。嘘をついて仕事をさぼって番組に出たシェリーが、決勝戦当日に仕事に来なければ解雇すると言われるというエピソードがはさまれるものの、そのことで特にドラマが盛り上がるというわけではない。お約束なので、そういうエピソードを入れてみましたという程度でしかないのだ。本当にきわめてシンプルなストーリーの映画なのである。
　なぜかというと、登場する各チームのパフォーマンスをフルで観せるので、余計なストーリーを盛り込む余地などまったくなくなってしまっているのである。映画を観ているというよりも、その「ARE YOU iDOL ENOUGH!?」という番組をまるまる観ているようなものなのだ。しかも、予選と決勝戦の2回分のパフォーマンスがすべてノーカットで映し出されるのだから、ストーリーはめちゃくちゃシンプルなものにせざるを得ないのである。
　そして、当然ながら、決勝戦ではマリアたちのチームが圧倒的なパフォーマンスを披露する……のかと思いきや、これがたいしたことがないのだから困ってしまう。

　番組の司会進行をしているのは、『サリーを救出（Saving Sally）』の（我が愛しの）リーアン・ラモスと『Love is Blind』のソレン・ユーサッフが本人役で出演している。このふたりがずっといがみ合っていて、お互いを攻撃するために番組の進行とともにどんどん怪我をしていくという設定がなんとも奇妙だ。
　主役の（我が愛しの）メアリー・ジョイ・アポストルはミカイル・レッド監督の『バードショット』に出ていた美少女だ。もっとメジャーになる女優と期待していたのだけれど、いまひとつメジャーになりきれないでいる。
　そして、チームメンバーのひとりハナを演じているナミ・オヌマは、ずっと流暢な日本語を喋っていたので、たぶん生粋の日本人なのだと思う。映画の中ではタガログ語を喋れないという設定でずっと日本語を喋っていたのだけれど、決勝戦では唐突にタガログ語のラップバトルを展開していた。

　監督はデビッド・ハルバート（David Hulbert）とカズヒコ・パルンガオ（Kazuhiko Parungao）。このカズヒコ・パルンガオという人も実に謎の人物である。おそらくは日系人と思われるのだけれど、Senpai Kazuという名前を使うこともあり、バイクショップを経営しているらしい。

　本作はもともと『Simplicity』というタイトルで2018年に劇場公開された映画なのだが、なぜか『ACCIDENTAL IDOLS』というタイトルに変えられてYouTubeに公開されている。どうやら、製作会社が新型コロナでロックダウンされている間の娯楽を提供する目的で、無料公開に踏み切ったものらしい。