2021年に観たフィリピン映画

【Patayin sa sindak si Barbara】1995年

監督：チト・Ｓ・ロニョ
キャスト：ロルナ・トレンティーノ、ドーン・ズルエタ



　妹のルース（ドーン・ズルエタ／Dawn Zulueta）が亡くなり、急遽アメリカから帰ってきたバルバラ（ロルナ・トレンティーノ／Lorna Tolentino）。だが、その夜からルースの亡霊が現れ、バルバラたちに襲いかかるのであった。
　実は、異常に嫉妬深いルースは、夫のニック（トントン・グチエレス／Tonton Gutierrez）の浮気を疑い、夫とその相手の女性を呪ってやると叫びながら自殺していたのだった。
　かつて、ニックとつきあっていたのはバルバラだった。だが、姉の持っているものをすべて欲しがり、手に入れない限りは諦めようとしない性格のルースのためにバルバラは身を引き、ニックとルースは結婚したのだった。だが、嫉妬深いルースとの生活にうんざりしていたニックの心の中には、ずっとバルバラのことがあった。そうした態度が、ルースに浮気を疑わせる原因にもなっていたのだが。
　怪異現象は、家に暮らす娘のカレン（Antoinette Taus）、家政婦のアーレイ（Amy Austria）、運転手のビドイ（ノニー・ブエンカミノ／Nonie Buencamino）にも襲いかかる。一度は神父に頼り、家を浄めてもらうのだが、それでも怪異現象はおさまらなかった。
　バルバラは、ルースが生前に頻繁に尋ねていたという霊媒師のベアトリス（Angie Ferro）を尋ねて助けを求めるのだったが……。

　リカルド・リー（Ricardo Lee）による脚本は、ある意味、かなりオーソドックスなホラーである。家に襲いかかる怪異現象も、ルースの亡霊が姿を見せたり、家具が室内を飛びかって襲いかかってきたりと、これまたオーソドックスなものである。
　ところが、緊張感が持続して、グイグイと作品世界にひきこまれてしまうのだ。ひとえに、チト・Ｓ・ロニョ監督（Chito S. Roño）の演出力と、俳優陣の熱演のたまものということができよう。とりわけ、カレンという娘を使った恐怖演出がなかなかに怖い。
　そして、霊媒師のベアトリスがアシスタントのソフィアを伴って亡霊退治に乗り出してからの降霊術の場面なども緊迫感があってなかなかに見せる。が、そのあと、けっこうあっさりと解決してしまう……と思いきや、とんでもない展開が待っていた。
　「地獄の業火」という言葉があるが、なんとそれを映像にして見せてくれるのである。ルースの亡霊が「わたしのことを愛しているのなら、わたしをひとりにしないで。わたしと一緒に死後の世界にきて」とバルバラを連れ込もうとする世界が、いちめん燃えさかる世界なのだ。まさか、そのような展開が待ち構えていようとは！

　監督のチト・Ｓ・ロニョは大ヒットしたホラー映画『Feng Shui』『Sukob』『Feng Shui 2』で有名だが、一方でシャロン・クネタ主演の『Caregiver』、クリス・アキノ主演の『Etiquette for Mistresses』といった人間ドラマも撮っているし、『Yamashita: The Tiger's Treasure』といったアクション映画も撮っている実力派監督なのである。

　主演のロルナ・トレンティーノは実力派のベテラン女優で、1980年頃には年間10本前後の映画に出演し続けたほどの人気女優である。その頃の作品を詳しくチェックはしていないのだけれど、1961年生まれとのことなので、おそらくいわゆるアイドル映画だったのではないかと推測している。代表作は、マリルー・ディアズ＝アバヤ監督の『Moral』。
　ルースを演じているドーン・ズルエタも芸歴の長い女優で、僕が見たことがあるのは『She's Dating the Gangster』『The Love Affair』といったところ。正統派美人なだけに、亡霊の役に迫力がある。
　ビドイを演じたノニー・ブエンカミノも有名な俳優で、『Miss Granny』『Distance』の渋い役柄からすると、本作での若さに驚かされる。
　ニックを演じたトントン・グチエレスも『My Perfect You』『Camp Sawi』など多くの出演作のあるベテラン俳優だ。

　ちなみに本作は、1974年に撮られた『Patayin mo sa sindak si Barbara』のリメイクであるらしい。