2021年に観たフィリピン映画

【The Boy Foretold by the Stars】2020年

監督：ドリー・ドゥルー
キャスト：エイドリアン・リンダヤグ、キーン･ジョンソン



　男子校である聖フランシス学園に通う高校生のドミニク（エイドリアン・リンダヤグ／Adrian Lindayag）は、ゲイの友人たちといつも一緒に学園生活を謳歌していた。ある日、彼は親友のティミーに誘われて、有名な占い師のもとを訪れる。そこでドミニクは、これから1週間後に運命の相手に出会うと告げられる。その運命の相手との出会いには、「キングとスター」「雨と音楽」「月と抱擁」という3つの予兆となるキーワードがあるのだという。
　それから1週間後、学園では「主の旅（Journey of the Lord）」というイベントが待ち構えていた。キリスト教の教えを学ぶための3日間のイベントで、ドミニクはボランティアとしてそのイベントを手伝うことになっていた。参加者とペアになり、参加者を導くための役割を果たすことになっていたのだ。そして、ドミニクがペアを組むことになったのはバスケットボール部のルーク（キーン･ジョンソン／Keann Johnson）だった。ルークはガールフレンドのカレン（リッセイ・レイエス／RISSEY REYES）から別れを告げられたばかりで落ち込んでいたのだが、そこから立ち直る助けを求めて「主の旅」に参加してきたのだった。
　ドミニクはルークの導き手として、彼の手助けをしようとする。それを機会として、やがてふたりの間には友情が芽生えるのだが、ひとつ、またひとつと、占い師が告げた予兆が現れ、ドミニクはルークこそが彼の運命の相手であると確信する。そしてルークも友人としてドミニクの相手をするうちに、次第にそれが友情ではなく愛情であることに気がついていく。
　ゲイのドミニクとの関係をバスケットボール部の仲間から揶揄されたことで、一度はドミニクと距離を置こうとするルークだったが、それが運命であると信じたルークはドミニクに愛を告げる。
　だがそこに、一方的にルークに別れを告げたはずのカレンが現れ、ルークとの関係を修復したいと申し出るのだった。

　監督は新人のドリー・ドゥルー（Dolly Dulu）。プロデューサーとして何本もの作品にかかわってきた彼女だが、映画監督しては本作が初監督作品となる。
　なかなか堂々たる演出ぶりで、初監督作品とは思えないできばえだ。とりわけ、校庭にロウソクを並べたシーンとか、丘のむこうに広がる街の夜景とか、印象的な情景をとりこむのがすごくうまい監督であると感じた。また、登場人物たちの微妙な感情を実に見事に表現しているとも感じた。
　本作は、もともとドゥルー監督が大学時代にかかわった「Ang Hangal」という舞台をベースにしているとのこと。

　出てくる俳優は、知らない俳優ばかりなのだけれど、ルークを演じたキーン・ジョンソンはなかなかのイケメンで、これからの注目株ではないだろうか。それと、カレンを演じているリッセイ・レイエスも、すごい美人というわけではないのだけれど、強い印象を残す。

　エンドクレジットをじっくと見ていくと、最後の「Special Thanks To」のところに「DIREK JUN LANA」と出てくる。やはり、『ダイ・ビューティフル』『GameBoys』のジュン・ラナが絡んでいるらしい。
　なお、ウィキペディアによると、本作はフィリピンで初めて撮られたボーイズ・ラブを題材にした映画であるとのこと。この作品があって、「GameBoys」が撮られたり、「Hello Stranger The Movie」が撮られたりするようになったというわけだ。
　ちなみに、僕のこの作品に対する評価は非常に良好なものなのだけれど、その要因のひとつに、ドミニクとルークの関係を男性同士の愛ということにこだわって撮っていないということがあるように思われる。ドミニクはゲイだけれど、ルークにしてみたらいつの間にか好きになっていた相手がたまたま男性であったというだけなのだ。男性であるとか女性であるとかということに関係なく、ひとりの人間としてドミニクを愛してしまったという描き方になっているのだ。そのあたりは、監督の感性なのだろう。
　とはいうものの、見終えた直後にまず思ってしまったのは「これじゃあ、カレンが可哀想じゃないか！」ということだったりもする。

　本作は2020年のメトロマニラフィルムフェスティバル（MMFF）の公式エントリー作品として公開され、3つの部門で賞をとっている。前にも書いたけれど、この年のMMFFではアントワネット・ハダオネ監督の『Fan Girl』が賞を総なめにしたのだけれど、僕としては本作やジョエル・ラマンガン監督の『Isa Pang Bahaghari』の方がよほど良質な映画であると思っている。