2021年に観たフィリピン映画

【GAMEBOYS】2020年

監督：アイヴァン・アンドリュー・パヤワル（最終話のみペルシ・インタラン）
キャスト：ココイ・デ・サントス、イライジャ・カンラス
エグゼクティヴ・プロデューサー：ペルシ・インタラン、ジュン・ロブレス・ラナ



　いつもは劇場で公開される「フィリピン映画」を紹介するこのコーナーなのだけれど、今回はいつもとは違って、14話からなるウェブドラマのシリーズを紹介する。なんと、ボーイズ・ラブをテーマにしたドラマなのだ。日本で発生したボーイル・ラブの文化が国境を越えて、台湾や香港、韓国といった東アジアに波及し、さらにタイ、フィリピンといった東南アジアンにまで広がってしまったのである。

　ネットでオンラインゲームのライブ配信をやっているカイ（イライジャ・カンラス／Elijah Canlas）。彼のサイトではフォロワーと対戦するのをウリにしているのだけれど、あるとき、エンジェル2000を名乗る挑戦者にあっさり負けてしまう。悔しくて再戦を申し込むのだけれど、その相手、ガブ（ココイ・デ・サントス／Kokoy De Santos）はなぜか再戦の話をそっちのけでひたすらカイを口説いてくる。
「なに、こいつ？」とあきれつつも、いつしかガブのしつこさに巻き込まれていくカイ。
　かくして、ネットを通じての2人のやりとりが繰り返されていくことになるのだけれど…。

　というわけで、画面に映るのはネットを通じてやりとりするふたりのモニターの画面が中心となる。なにしろ、猛威をふるう新型コロナウイルスのために街がロックダウンされ、お互いに行き来することができない状況なのである。
　そこにガブの幼なじみでガールフレンドでもあったパール、かつてガブを一方的に捨てたことを心から後悔しているモト彼のテレンスなども参加してきて、リモートでのやりとりがドラマを構成していく。まさに、コロナ禍ならではのドラマなのだ。
　第6話ぐらいまでは、一方的にカイをくどくガブと、それに翻弄されるカイの、なんとも天真爛漫なやりとりが展開されるのだけれど、そういう脳天気なドラマだと思って観ていると、なかなか衝撃的な展開が待ち受けていて思わず打ちのめされてしまう。カイの父親が新型コロナウイルスに感染して入院しており、面会すらできない症状であったのだけれど、その父親が亡くなってしまうのである。ここで嘆き悲しむカイの姿に、思わずこちらも泣かされてしまうのだけれど、その背後にあったエピソードでさらに泣かされてしまう。そう、本当にこのドラマはコロナ禍ならではのリアルなドラマだったのだ。
　実際、ロックダウンによって自由に行き来のできない状況にあったフィリピンでは、友人と直接会うことのできない中で、若者たちはネットに依存して、SNSを通じて友人や離れて暮らす家族とつながっているのだという。それがなければ、孤独に沈むしかない状況なのだ。それゆえ、コンピュータのモニターを通じてでしかやりとりのできないこのドラマは、実にリアルに感じられたことだろう。
　撮影も実際に自分たちの家の中でリモートで撮影し、共演者と顔を合わせてやりとりをするのではないという、実に難しいものであったらしい。

　監督は『I America』のアイヴァン・アンドリュー・パヤワル（Ivan Andrew Payawal）だが、最終話のみペルシ・インタラン（Perci M. Intalan）が監督をしている。
　最終話は第14話ではなく第13.5話となっているのだけれど、実質的な物語は第13話で完結していて、第13.5話というのはスピンオフ的なエピソードとなっている。そして、その最終話で描かれているのは、コロナ禍で孤立する同性愛者の孤独である。おそらくは、監督を担当したペルシ・インタラン本人が同性愛者ということでかつて感じていた孤独を、このエピソードに投影したものなのであろう。

　『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナ監督、『母との距離』のペルシ・インタラン監督がエグゼクティヴ・プロデューサーとして名を連ね、その二人が率いる〈The IdeaFirst Company〉が制作を担当している。ウェブドラマと言いつつも、映画の世界で着実に実績を積み重ねてきた実力者たちが結集して生み出された作品なのである。単なる脳天気なドラマに終わらず、現実世界に向き合った力強いドラマになっているのもなるほどとうなずかされる顔ぶれなのだ。
　ちなみに、ジュン・ロブレス・ラナとペルシ・インタランはゲイであることをカミングアウトし、互いをパートナーとしている。そして、数多くの映画をプロデュースし、監督してきたのだが、その中にはLGBTを題材にした作品も少なくない。というか、最近ではほとんどの作品がLGBTを題材にしている。ある意味、彼らが『GAMEBOYS』というボーイズラブのドラマを撮ったというのは、ごくごく自然な流れだったのだと言えよう。

　ガブを演じたココイ・デ・サントスは、テレビシリーズを中心に活躍しながらも、『キッド・クラフ』『ダイ・ビューティフル』『Kimmy Dora: Ang kiyemeng prequel』『Bromance: My Brother's Romance』などといった映画にもちょこちょこと出てはいるようだ（正直、どこに出ていたのかはわからないのだけれど）。そういえば、『Hellcome Home』というホラー映画で、ゲイの若者を手ひどく拒絶するという本作とはまったく逆の役を演じていたのも彼だった。強引で自信満々のようでいて実はナイーブな一面も持つという本作のガブというキャラクターが、まるで彼本人のキャラクターであるかのように実に見事に演じきっている。
　カイを演じたイライジャ・カンラスは、逆にテレビよりも映画の方がメインのようなのだが、どういうわけか彼の出ている映画は1本も観たことがなかった。強引に押してくるガブに翻弄される様子がなんともユーモラスで可愛らしい。
　そしてもう1人、ガブの元ガールフレンドで、2人の恋の進展をにぎやかに見守るキューピッド役のパールを演じているのがアドリアンナ・ソー（Adrianna So）。どうやら彼女も『ダイ・ビューティフル』に出ていたらしい。『GAMEBOYS』のヒットから生まれたスピンオフドラマ『Pearl Next Door』では主役を演じている。こちらは女性の同性愛を題材としているらしい。

　なお、本作はYouTubeで配信されているので、日本からもごくごく普通に観ることができる。しかも、熱心なファンが日本語字幕をつけてくれているので、必死に英語字幕を追いかけなくても日本語で楽しむことができる。実に実にありがたい。
　ちなみに、第6話までと第13話、第13.5話はごく普通にYouTubeで日本語字幕付きで見ることができるのだけれど、第7話から第12話は普通にYouTubeにアクセスしたのでは日本語字幕付きで見ることができない。第7話以降の字幕をつけてくれた方のブログが以下のサイトにあるので、そこにあるURLからアクセスしてほしい。

★今こそ見てほしいフィリピンBLドラマ『GAMEBOYS』のコロナ禍の現実と悲哀
https://note.com/linda_entame/n/nb1f0b1ff387b

　ちなみに、第5話までの字幕をつけてくださった方のブログはこちら。
★フィリピンのWEBドラマに字幕をつけてわかったこと
https://note.com/haruka_13/n/ncc2c9cca291b

　現在、『GAMEBOYS Season 2』の制作中とのことで、世界中の『GAMEBOYS』ファンがその完成を待ちかねているとのこと。もし、こちらもどなたかが日本語字幕をつけてくれたなら、ぜひまた観てみようと思っている。