2021年に観たフィリピン映画

【Hellcome Home】2019年

監督：ボビー・ボニファシオ・ジュニア
キャスト：デニス・トリーリョ、レイモンド・バガティン、ビューティ・ゴンザレス




　2019年。ある家族が郊外の孤立した家に引っ越してくる。ピーター（デニス･トリーリョ／Dennis Trillo）とマーシー（Alyssa Muhlach）の夫婦と、息子のスカイ、マーシーの母、まだ赤ん坊のスター、スターの子守りの6人。ピーターとマーシーはようやく念願のマイホームが手に入ったと喜んでいるが、マーシーの母は都会を離れた片田舎に移ってきたことにずっと文句を言い続けている。だが実のところは、仕事を失ったピーターにとって、残された財産と呼べるものはその家だけだったのだ。その家に住む以外の選択肢はないのだった。
　しかし、その家に住むようになってから、次々と怪異が家族に襲いかかる。ピーターは飲み屋で出会った地元の農民から、かつてその家で事件があったことを告げられる。父親の手にかかって、家族全員が惨殺されるという事件があったというのだ。それ以来、その家には亡霊が取り憑いているというのだ。
　その家に取り憑いている何物かのために、次第に狂気に追いやられていくピーター。ついには、家族に手をかけようとするのだが…。

　そこから物語は1993年、その家に移ってきた前の家族の話となる。その家に越してきたのはナンディ（レイモンド・バガティン／Raymond Bagatsing）とシンシア（ビューティ・ゴンザレス／Beauty Gonzalez）の夫婦、息子のフレッド（ティージェイ・マルケス／Teejay Marquez）、娘のミア（ギリアン・ヴィセンシオ／Gillian Vicencio）とピアだった。しかし、末の娘のピアはシンシアが別の男と浮気してできた子どもで、そのことが原因で家族の間には常にギスギスした空気が漂っていた。しかも、不動産売買に絡む大きな取り引きが、地元の農民たちが信奉する不気味な宗教のために失敗に終わってしまい、ナンディは大きなストレスを抱えていく。
　この地元の農民たちの宗教というのがいまいちよく分からなかったのだが、常に木を打ち鳴らして念仏を唱えながら村の中を集団で練り歩いているのである。常にこの木を打ち鳴らす音と、彼らが誦す念仏の声が家の外から聞こえてくるのだ。
　一方、息子のフレッドは自分がゲイであるということが学校でばれてしまう。また、娘のミアは東京で開催される体操の大会の選手に選ばれるのだが、その直前に妊娠していることが判明してしまう。そして、妻のシンシアのもとには、ピアの本当の父親であるベンジーが現れてよりを戻そうと持ちかけてきていた。
　そうしたいくつものトラブルが錯綜した挙げ句に事件が起き、ナンディの手にかかってシンシア、フレッド、ミア、ピアはむごい死を迎えてしまうのだが…。

　とまあ、過去の事件によって殺された亡霊が家に取り憑いて、家にやってきた家族を取り殺そうという、よくあるパターンのホラー映画なのかと思っていると、1993年の物語から2019年の物語に戻ってきたところで、ぜんぜん違う真相が次々と明らかになっていく。どうせ日本で公開されることはないと思うので、ここからネタバレをやってしまいますので、もしこのあとの展開を知りたくない方は以下の内容紹介を飛ばしてください。

　実はピーターたちの家族に次々と襲いかかっていた怪異は、過去に殺されたシンシアたちの亡霊が、家に棲みついていた悪霊からピーターたちを守ろうとして起きたものだったのだ。ピーターたちを取り殺すどころか、自分たちと同じ運命を辿らないように守ろうとしていたのだ。映画の前半で描かれていたシーンが、まったく別の意味をもって繰り返されていく展開に思わず鳥肌がたってしまう。そういう展開はまったく予想していなかったので、まさに度胆を抜かれた。
　さらには、一家の主であるナンディによって家族が惨殺されたと思っていた過去の事件が、実は悪霊に取り憑かれたシンシアの手によるものであって、ナンディはそれを必死に食い止めようとしていたのだったということも明らかになる。これまた、ついさっき観たばかりの映像が、まったく違う意味をもった映像として再現されていき、心底驚かされてしまう。
　なんとなんと、シンプルなホラー映画と思っていた内容が、ここにきて二転三転してしまうのだった。
　ただし、悪霊に取り憑かれたピーターとナンディが争う血まみれのクライマックスは、はたしてつじつまが合っているのかどうか、いまいちはっきりはしないのだけれど。
　で、村を練り歩いていたあの農民たちの宗教がなんだったのかは、ついに分からないままだった気がするのだけれど。
　いずれにせよ、よくあるパターンのホラー映画でしょと侮っていてごめんなさいという気分だ。やっぱり、ちゃんと観てみないと分からないもんだよね。

　監督のボビー・ボニファシオ・ジュニア（Bobby Bonifacio Jr.）は、 2006年に『Numbalikdiwa』というホラー映画で監督デビューしたあと、12年間の空白期間があって2018年に『Hospicio』という（たぶん）ホラー映画を撮り、2019年の本作が3作目となる。脚本も自分で書いているので、この凝ったストーリーはボニファシオ監督によるものなのだろう。

　ちなみにフレッドが思いを寄せる若者の役でココイ・デ・サントス（Kokoy De Santos）という俳優が出ているのだけれど、ただいま『Gameboys』というボーイズラブを題材としたWEBドラマで人気沸騰中であるらしい。最後に、ちょいとトリビアを付け加えてみました。