2020年に観たフィリピン映画

【The Missing】2020年

監督：イージー・フェラー
キャスト：リッツ・アズール、ジョセフ・マルコ、マイルズ・オカンポ



　佐賀県フィルムコミッションの全面的なバックアップによって、佐賀県内でロケがおこなわれた作品。本来ならとっくに公開されているはずだったのだけれど、コロナ禍のためにフィリピンの映画館が閉鎖され、結局は年末のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルの公式エントリー作品としてネット配信で公開されることとなった。おかげで、日本にいながらにして観ることができたのだけれど。

　古い建物の修復を専門とするアイリス（リッツ・アズール／Ritz Azul）は、幼い妹が目の前で誘拐されて行方不明となり、そのトラウマに悩まされていた。そんなある日、かつての恋人であるジョブ（ジョセフ・マルコ／Joseph Marco）から声をかけられ、日本の佐賀で古民家の修復に携わることとなる。その古民家は、彼女たちの恩師であるワタナベ・リク（ジョーイシカワ）が所有する築100年を越す建物だった。美しい自然に囲まれたその古民家に泊まり込んで作業を始めるアイリスとジョブだったが、たびたび怪奇現象が発生してアイリスに襲いかかる。だがジョブは、妹を誘拐されたトラウマから幻覚を見ているだけだろうと判断して、本気にしようとはしない。
　一方、2人の助手を務める日本育ちのレン（マイルズ・オカンポ／Miles Ocampo）は、秘かにその古民家に関する調査を始めていた。実は、この土地で家政婦をしていたレンの姉は数年前に行方不明になっており、その謎を解く鍵がこの古民家に隠されていると確信していたのだった。
　また、この場所で行方不明になった息子を探す不気味な老婆がたびたび姿を現すようにもなる。なぜか、いくつもの行方不明事件がこの古民家を中心に発生しているのだった。
　そして、アイリスとジョブは、地元出身の大工の若者フミオから、その土地に古くから伝わる「人柱」の儀式について聞かされるのだったが…。

　佐賀県フィルムコミッションがバックアップしたフィリピン映画には『Between Maybes』『Hanggang Kailan?』などがあり、いずれも日本の伝統的な風景が実に見事に映画にとりこまれているのだけれど、本作はさらにその日本的な光景が効果的に扱われている。紅葉に彩られた周囲の自然が素晴らしく、その中にある古民家のたたずまいも実に日本的だ。そして、そこで展開される恐怖もいかにも日本的で、『リング』などのジャパニーズホラーの影響も感じられる。なにしろ、題材となっているのは「人柱」なのである。過去の因縁からワタナベ一族は呪いをかけられていて、その呪いから一族を守るために人柱を埋めてきたという設定なのだ。つまり、その古民家に現れる亡霊たちは、人柱の犠牲となった者たちだったのだ。さすがにこの発想はフィリピンにはないだろうな。
　でも、それだったら亡霊たちがアイリスたちを襲うというのは、つじつまが合わないんだけどね。そして、登場する亡霊たちの造形も、ちょっと日本のものとは違うんだけどね。

　監督のイージー・フェラーは本作が劇場映画2本目となる新鋭女流監督だ。数多くの作品で助監督として勤めてきた実績があり、佐賀県で撮影された『Between Maybes』でも助監督として来日している。その時の実績が本作に繋がっているのだろう。
　俳優陣に関してはあまり馴染みがないのだけれど、主演のリッツ・アズールはテレビシリーズを中心に活動してきた女優なのだけれど、ここ数年は映画にも少しずつ出ていて、今年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルのエントリー作品では本作の他『Mang Kepweng: Ang lihim ng bandanang itim』にも出ている。
　ジョブを演じたジョセフ・マルコもテレビドラマの仕事が多いようだが、僕の観た映画では『牢獄処刑人（On the Job）』『Talk Back and You're Dead』に出ているようだ。
　そして、レンを演じていたマイルズ・オカンポが実はいちばん好みの女優で、彼女に注目しながら観ていた。調べてみると子役出身ゆえに長い芸歴を持ち、僕の観た映画では『あなたがいてくれたから（You Changed My Life）』『BFF: Best Friends Forever』『忘れられないあなた（It Takes a Man and a Woman）』『Pagpag: Siyam na buhay』『Halik sa hangin』『The Achy Breaky Hearts』に出ているとのこと。いままでは出ていたとしてもさほど気にしていなかったのだけれど、これからは要注目の女優だぞ。フィリピンの歌姫イェン・コンスタンティーノにちょっと似た愛らしい丸顔の女優さんだ。

　メトロ・マニラ・フィルム・フェスティバルの賞レースでは、アントワネット・ハダオネ監督の『ファンガール』が各賞を総なめするという結果に終わり、本作はワタナベ・リクの息子のアキを演じたSeiyo Masunagaが最優秀子役賞を受賞するにとどまった。