2020年に観たフィリピン映画

【Loving in Tandem】2017年

監督：ジセル・アンドレス
キャスト：マイマイ・エントラータ、エドワード・バーバー




　アメリカで一緒に暮らしていた父が亡くなり、その遺産を処分するために母のサインが必要なルーク（エドワード・バーバー／Edward Barber）は、母（カルミ・マーティン／Carmi Martin）の住むフィリピンへとやってくる。だが、フィリピンに到着するなり、全財産の入った財布を擦られてしまう。
　兄夫婦の家にやっかいになっているシャイン（マイマイ・エントラータ／Maymay Entrata）は、甥のマクマクの手術費を稼ぐためにやむなくスリの手伝いをする。そのおかげで、マクマクは手術を受けられたのだけれど、盗んだ財布のひとつがルークのものだった。
　財布を失ったルークはやむなく母の家に滞在することになるのだが、幼い頃に彼をアメリカに残してフィリピンに戻ってしまった母を、ルークはどうしても許すことができなかった。しかも、父の遺産を処分するために母のサインが必要だというのは、彼を唯一の肉親である母のもとに送るための叔父の嘘だったということが判明してしまう。
　にっちもさっちもいかなくなったルークであったが、近所に住むシャインから美容院の仕事を紹介されて働き始める。ところが、実はルークの財布を盗んだのがシャインであるということがばれてしまい、金を返させるためにルークはシャインをとことん働かせることに。ひたすら働いて、どんどん疲弊していったシャインは、とうとう倒れてしまうのだが…。

　ま、最終的にはルークとシャインがラブラブになり、ルークと母も和解し、働かずに妹の金を巻き上げていたシャインの兄も改心するという、お約束の展開になるわけですけどね。
　注目は、なんといっても主演のマイマイ・エントラータ。いままで『Hello, Love, Goodbye』『DOTGA: Da One That Ghost Away』『Fantastica』といった作品でその姿を見てはいたものの、いずれも主人公の妹であったり姪であったりと、脇役にすぎなかった。その時の印象は、決して美人ではないのだけれど、表情の豊かな女の子だなあというものだった。本作はその3作に先駆ける彼女のデビュー作にして現時点での唯一の主演作なのだけれど、当初の印象の通りで、決して美人というわけではない。なにせ、最初に目に付くのがドングリマナコにポッテリした分厚い唇なのだ。それに、大きく動きすぎる眉毛。だけど、活き活きとした表情がなんとも魅力的なのだ。
　シャインに惚れてしまったルークが彼女を探して病院に駆け付けて「このくらいの背丈で、ものすごく可愛い女性を見ませんでしたか？」と尋ねると、すぐ横にいた義理の兄弟が「それほどでもないけどね」と突っ込むシーンがあって笑ってしまったのだけれど、まさにそんな感じ。あるいは「彼女はめちゃくちゃ美しいです。ものすごく美しいです。そりゃ、映画に出てくるような、そういうタイプの美人じゃないけど」などというルークのセリフがあるのだけれど、本当にそんな感じ。
　ルークを演じるエドワード・バーバーも本作がデビュー作で、『DOTGA: Da One That Ghost Away』『Fantastica』でもマイマイ・エントラータと共演している。その後、テレビシリーズにもペアで出演しており、2人あわせてMaywardの愛称で親しまれている。2019年のラブチーム人気投票では、この2人のペアが1位に選ばれていたりもする。
　その他の共演陣もなかなか濃い顔ぶれが並んでいる。
　ルークの義理の兄弟のひとりを演じているのが、韓国人コメディアンのライアン・バン（そういえば、彼も『DOTGA: Da One That Ghost Away』に出ているぞ）。遊び人の夫といつも喧嘩を繰り返しているシャインの義理の姉を演じているのが、『Wander Bra』『Harry & Patty』などのカカイ・バウティスタ。理由があってルークをアメリカに残してフィリピンに戻り、血の繋がらない3人の息子を育てるシャインの母親を演じているのが、『Ang dalawang Mrs. Reyes』『Unexpectedly Yours』などのカルミ・マーティン。ろくでなしのシャインの兄を演じているのが、『Mindanao』『The Hows of Us』などのケチャップ・ユーセビオ。
　監督はジセル・アンドレス（Giselle Andres）。数々の名作の助監督を務めてきて、本作が監督デビュー作となる。いろいろな要素がつまりまくった本作を実に見事に、しかも感動的に仕上げており、これからも楽しみな女性監督だ。ちなみに、2作目がジョシュア・ガルシア＆ジュリア・バレット主演の『I Love You, Hater』で、話題のラブチームが主演している作品なので、これも観なければと思っている。
　脚本は『Can't Help Falling in Love』『My Perfect You』『I Love You, Hater』のクリスティン・ガブリエル（Kristine Gabriel）。こちらも要注目だ。