2020年に観たフィリピン映画

【The Mall, the Merrier!】2019年

監督：バリー・ゴンザレス
キャスト：ヴァイス・ガンダ、アン・カーティス




　幼い頃に両親が離婚したために離れて育ったモイラ（ヴァイス・ガンダ／Vice Ganda）とモリセット（アン・カーティス／Anne Curtis）の兄妹。だが、飛行機事故で両親が亡くなり、遺されたショッピングモールを巡って、ふたりの間にあらそいが引き起こされることに。
　だがそこに、かつて母が所有していた魔法の書を求めて、叔母のモーディ（ディンプレス・ロマーナ／Dimples Romana）までが現れ、ショッピングモールを巡るあらそいが複雑化していく。
　そして、そうとは知らずにモイラが魔法の書の呪文を読み上げたことによって、ショッピングモールにあったマネキン、写真、オモチャたちに命を吹き込むことになり、夜のショッピングモールは混乱の坩堝と化してしまうのだった。

　毎年、年末のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルの季節になると劇場にかかるヴァイス・ガンダ主演映画。かつては、ウェン・Ｖ・デラマスが監督を担当して、2011年の『The Unkabogable Praybeyt Benjamin』から2015年の『Beauty and the Bestie』まで確実に年間１位のヒット作を生み出していた。そして、デラマスの死後はジョイス・ベルナールがあとを引き継いで、2016年の『The Super Parental Guardians』、2017年の『Gandarrapiddo: The Revenger Squad』と、やはり年間１位の大ヒットを記録。ところが新鋭のバリー・ゴンザレス（Barry Gonzalez）に監督を交代した2018年の『Fantastica』では、キャシー・ガルシア・モリーナ監督の『The Hows of Us』にダブルスコアの大差で１位の座を譲ることになってしまう。
　そして2019年、再びバリー・ゴンザレスが監督したのが本作となるのだが、結果はというとやはり１位のモリーナ監督の『Hello, Love, Goodbye』に大差をつけられての年間３位となってしまった。かつてはヴァイス・ガンダさえ出ていれば大ヒットという印象だったのだけれど、やはり作品の質も伴わなければ客は入らないということなのだろう。
　おそらく、フィリピンの人々は、クリスマスシーズンのヴァイス・ガンダ主演作を楽しみにしているのだと思う。ずっと、シンプルに楽しめるコメディ映画を提供してきていたのだから。だが、正直、本作のギャグは低レベルすぎて笑えない。笑えないどころか、痛々しくすらある。なんでアン・カーティスほどの美人女優が、こんなくだらないギャグにつきあわなくてはならないんだ！と怒りすら覚える。けっこう泥臭いギャグを連発していたデラマス監督のコメディ映画が、洗練のきわみにすら思えてくる。
　よく「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現を使うけれど、「おもちゃ箱をひっくり返しただけ」というのがこの映画なのだろう。

　ちなみに、8本の作品がエントリーした2019年のメトロマニラ・フィルム・フェスティバルだが、本作はとうとう20部門ある賞のうちたったひとつも取れないまま終わっている。まあ、そもそもが賞に向いていないタイプの作品ではあるのだけれど。