2020年に観たフィリピン映画

【Three Words To Forever】2018年

監督：キャシー・ガルシア・モリーナ
キャスト：キャスリン・ベルナルド、シャロン・クネタ




　結婚25年目のリック（リチャード・ゴメス／Richard Gomez）とクリスティ（シャロン・クネタ／Sharon Cuneta）は、日々の暮らしでなにかとぶつかりあうことが多く、とうとう離婚することに合意してしまうのだった。だが、クリスティの両親、シト（フレディー・ウェブ／Freddie Webb）とティナイ（ライザ・ロレナ／Liza Lorena）が結婚55周年の記念としておこなうバウ・リニューアル（夫婦関係を続けてこられたことに感謝し、改めて愛情を誓い合うイベント）の間だけは、仲の良い夫婦を演じることにするのだった。
　そして、そのバウ・リニューアルには、娘のティン（キャスリン・ベルナルド／Kathryn Bernardo）が恋人のカイル（トニー・エスグエラ／Tommy Esguerra）を伴ってやってきていた。
　両親が理想的なカップルであると信じているティンの前で、愛し合うふりをするリックとクリスティ。そのためもあって、シトとティナイだけではなく、リックとクリスティ、ティンとカイルの3組のカップルの幸せを祝うイベントをおこなうことになってしまう。
　そのことにとまどうリックとクリスティだが、結婚を約束していたティンとカイルが仲違いをしたことをきっかけに、ふたりの不仲はティンの知るところとなってしまう。さらにはティンが長年抱えていた母親に対する不満までもが噴出してしまい、家族は崩壊の危機に立たされてしまう。
　ところが、そんな状況下だというのに、心臓発作をおこしたことのある夫の健康を心配しすぎるティナイにうんざりしたシトが姿を消してしまうのだった。

　監督はフィリピントップクラスのヒットメーカーであるキャリー・ガルシア・モリーナ。登場人物の感情の機微を丁寧に描く、良質な作品をコンスタントに送り出してきている監督である。
　本作の仕上がりも素晴らしい。いかにもモリーナ監督らしい、細かいところにまで注意の行き届いた丁寧な作りの作品となっている。
　家族の愛情を描くことに関しては、常にみごとな手腕を発揮するフィリピン映画界なのだけれど、本作はとりわけ脚本、監督、俳優、すべてが素晴らしく、ひたすら画面に惹きつけられた。
　口惜しいのは、英語のセリフを読み切れなかったということ。なんとか日本語字幕をつけて上映なり配信なりしてもらえないものだろうか。この映画は、ちゃんとセリフを理解した上でどっぷりと作品世界にひたって堪能したい作品なのだ。
　2018年の作品だけれど、いまのところ今年観たフィリピン映画のベストと言っていいだろう。

　クリスティを演じるシャロン・クネタは言わずと知れたフィリピン映画界を代表する大女優だ。デビュー当時はクネタ財閥の令嬢が芸能界入りしたことで話題になり、アイドルとして活躍したが、昨今ではテレビ番組の司会などでも活躍し、名実ともにメガスターと評されている。最新作の『存在するもの（Kuwaresma）』では、初めてホラー映画に出演したことが話題となった。
　クリスティの夫、リックを演じたリチャード・ゴメスもベテランの役者である。キャスリン・ベルナルドとダニエル・パディリアが主演した『She's Dating the Gangster』では、ダニエル・パディリア演じるケンジの父親を演じていた。
　キャスリン・ベルナルドは、テレビドラマでも映画でもずっとダニエル・パディリアと共演していたが、本作で実に久しぶりにダニエル・パディリア以外の男優とのカップルを演じている。これに続く同じくモリーナ監督の『Hello, Love, Goodbye』でもアルディン・リチャーズと共演して大ヒットを飛ばしており、新境地を拓いたかと思ったが、現在予告されている次回作『After Forever』では再びダニエル・パディリアと共演することになっているようだ（ちなみに、監督はやっぱりモリーナ監督で、大ヒットはいまから約束されたも同然の作品なのである）。
　そして、カイルを演じたトニー・エスグエラなのだけれど、テレビシリーズ3本に出たあとで本作を含む2本の映画に出たきり、まったく映画にもテレビドラマにも出ていないらしい。いかにも優しそうな甘いマスクで、人気がありそうなのだけれど。そういえば、本作のポスターにも彼の姿がないんだよなあ。なんなんだろう、この扱いの差は。