2019年に観たフィリピン映画

【ロスト・イン・ラブ（A Love Story）】2007年

監督：マリオ・Ｊ・デ・ロス・レイエス
キャスト：アガ・ムラ、マリセル・ソリアノ、アンジェリカ・パンガニバン




　社会的な成功を成し遂げているイアン（アガ・ムラ／Aga Muhlach）には、ジョアンナ（マリセル・ソリアノ／Maricel Soriano）という恋人がいて、互いに愛し合っていた。だが、かつて結婚していた相手から一方的に捨てられた過去を持つジョアンナには、どうしてもイアンのことを信じ切ることができず、結婚に踏み切ることもできずにいた。そして、過去にとらわれているジョアンナゆえに、イアンはなにかとストレスにさらされ、不満を抱え込んでいく。
　あげく、イアンはかつての恋人であるカリン（アンジェリカ・パンガニバン／Angelica Panganiban）との関係を復活させてしまう。キャビンアテンダントをしているカリンは、自分を束縛しない関係を求めてイアンと付き合っていたのだが、「帰宅した時に、誰かに家にいてほしい。自分は家で待っていてくれる妻が欲しいんだ」というイアンと気持ちがすれ違って、いちどは別れていたのだった。
　イアンが若い女性と付き合っていることを知ったジョアンナは、再びひどく傷つき、イアンを責め立てるのだが…。

　うーん、出てくるキャラクターにまったく共感できない映画だった。とりわけ、ふたりの女の間を行ったり来たりするイアンの行動がどうしても理解できない。ふたりの女性を同時に愛しているということなのだろうけれど、片方でなじられればもう片方に逃げ、そっちで責められればまた別の片方に戻るという行動に共感しろと言われても、それは無理というものだろう。それなのに、映画はあたかもイアンが誠実な男性であるように描いているのだから、困ってしまう。どう見たって、わがままで自分勝手で大人になりきれていないダメ男でしかないではないか。
　ちなみに、監督のマリオ・Ｊ・デ・ロス・レイエス監督（Maryo J. de los Reyes）、以前見た『The Unmarried Wife（2016年）』の監督でもあるのだけれど　やっぱりあれもアンジェリカ・パンガニバンの出てくる愛と不倫のグショグショの恋愛映画であった。レイエス監督、きっとこの手の映画が好きなんだろう。
　でも、僕は好きじゃないぞ。
　でも、そういう映画でありながらも、やっぱり家族の問題を大きく取り入れずにいられないのがフィリピン映画。かつてイアンのことを認めようとしなかった父親が、いまでは認知症になってイアンのことが分からなくなっているのだけれど、それでもその父に認められたいというイアンの葛藤が描かれたりするのである。

　主演のアガ・ムラはかつて熱狂的な人気をほこったアイドル男優だった。1969年生まれで、アリエル・ムラ（Ariel Muhlach）名義で映画デビューしたのが1975年だから、いわゆる子役あがりの俳優ということになる。それが、1984年に一気に人気に火がつき、1年間で6本の映画に出演。その後も、1985年から1989年にかけて16本の映画に出演し、1990年代にも30本以上の映画に出演しており、その本数を見ただけでも、どれほどすごい人気があったのかお分かりいただけるだろう。
　人気絶頂時の彼のノリのよさと軽さは、やはり日本で人気絶頂だったトシちゃんこと田原俊彦とどことなく雰囲気が似ていて、当時僕は彼のことを「フィリピンの田原俊彦」と呼んでいたものである。
　それがすっかり大人の役者となったのだけれど、それでもどこか大人になりきれていないような役柄が多いのは、アイドル時代のイメージを引きずっているせいなのかもしれない。