2018年に観たフィリピン映画

【アルファ、殺しの権利（Alpha, The Right to Kill）】2018年

監督：ブリランテ・メンドーサ
キャスト：アレン・ディソン、イライジャ・フィラモー




　刑事のエスピノ（アレン・ディソン／Allen Dizon）は、警察署で掃除係をしているイライジャ（イライジャ・フィラモー／Elijah Filamor）の持ち込んだ情報をもとに麻薬密売組織の本拠地を襲撃する計画を立て、スワットチームなど署員を総動員して乗り込んでいく。その結果、組織のボスを射殺し、組織を壊滅に追い込む。
　だが、ボスが持っていた大量の麻薬をエスピノは射殺現場からこっそり持ち出す。最初から、それが目的で計画した襲撃作戦だったのだ。情報を持ち込んだイライジャは、以前からエスビノが横流しした大麻を売りさばいていたのだった。
　取り締まりの厳しいマニラで、イライジャが大麻を売りさばいていく様子などが描かれる一方、警察署では現場から大麻がなくなったことが問題視されていた。持ち逃げした犯人が内部の人間である疑いがあり、そのような不正は決して許さないと警察署長が捜査に乗り出してきたのだった。だが…。

　見終えて最初に思ったのは、「ブリランテ・メンドーサにしては、普通の映画作りをしているじゃないか」ということだった。手持ちカメラによる臨場感溢れる揺れ動く映像は相変わらずなのだけれど、いかにも普通の映画的なドラマ作りがなされているのだ。「なんだ、普通の犯罪映画じゃん」という印象になってしまう。ブリランテ・メンドーサらしくないのだ。ちょっと辛辣な言い方をしてしまうが、これだったらわざわざ映画祭に持ってくるまでもなかったんじゃないの。
　そして、相変わらずドゥテルテ大統領が引き起こした麻薬戦争が題材なのだけれど、このところ、映画祭のたびに同様のテーマのフィリピン映画が上映され、正直、食傷気味ではある。しかも、いかにも「衝撃の展開」と紹介されそうな終わらせ方までパターン化されてきていて、「もう、いいよ」という気分。重要なテーマであるというのは分かるのだけれど、そればっかり見せられてもなあ…というのが正直なところだ。

　それにしても、麻薬戦争を題材にしたフィリピン映画を観ていて不思議だと思うのは、警察の腐敗を描いた映画なのに、警察が全面協力していたり、警察署でロケをしていたりするところ。あれは、警察としてはどういうつもりなんだろう？　単に大らかなだけなのか？
　サンセバスチャン国際映画祭の記者会見では、「撮影に協力してくれた警察に脚本は見せたのか？」という質問が飛びだしたらしいが、それに対してメンドーサ監督は「いや、彼らは脚本は読んでいません。でもセリフや撮影がリアルに見えるようにサポートしてくれました」と答えたのだと言う。
　ちなみに、本作はNetflixで配信されている「AMO 終わりなき麻薬戦争」というテレビシリーズと連動しているのだという。役名は異なるがアレン・ディソンが同じく警察官役で出演し、警察の腐敗を描いているとのこと。

　主役を演じているアレン・ディソンは、『Magkakabaung(2014)』『Bomba(2017)』『Dukot(2009)』といった作品で知られている男優らしいが、いずれも未見。僕の観た作品では、『All You Need Is Pag-ibig』『インビジブル（Imbisibol）』に出ていて、『インビジブル』ではけっこう主要な役だったのだけれど、ぜんぜん覚えていなかったよ。ごめん！