スティル・ブラック

このコーナーが始まったのは、香港が中国に返還される少し前のことだった。はたして返還後の香港映画はどうなってしまうのだろうかと、しきりに気をもんでいた頃のことだ。なにしろ、シナリオの事前審査制度が導入されるのだろうかとか、厳しい検閲が課せられるのだろうかとか、もしかして香港映画そのものが消滅してしまうのではないだろうかとか、不安材料はいくらでもあったのだ。 　ところが、いざ蓋をあけてみると、返還によるマイナス変化というものはほとんどなかった。香港映画は相変わらず元気だし、活きのいい作品が次から次へと産み出されている。 　というわけで、今回もとびきり活きのいい映画、バリバリのアクション活劇を紹介しよう。 　東欧の小国にある中国大使館に派遣されたドン（チウ・マンチュク）は、着任するなり地下鉄サリン事件の犯人であるカルト教団のリーダー、ミシマに遭遇し、激闘のすえにこれを捕らえる。だが、武器を横流ししている軍上層部とミシマがつながっていたため、中国大使館は教団信者と軍とを敵にまわすことになってしまう。四面楚歌の中、ドンたちはミシマ移送の任務を託されるのだが…。 　地下鉄サリン事件の他、天安門事件などもさりげなく取り込まれている。それでいて徹底した娯楽作品なのである。まさに香港映画の真骨頂というべきか。 　主演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ�W』等のチウ・マンチュク。監督はアラン・ラム。見ごたえのあるアクションシーンをたっぷりと満喫できる力作である。 　といったところで、本コーナーは今回で終了となります。ながらくのご愛読、ありがとうございました。

1989年／ビデオ＝ワーナー・ホームビデオ、15,000円

メモ 実はこの最終回には、別バージョンの原稿が存在する。なぜかというと、最終回と言い渡される前に原稿を書き上げてあったからなのです。早めに原稿を用意しておいて、悠々とかまえていたら、突然最終回の連絡があり、あわてて書きかえたのがここにアップしたものなのでした。 そもそも、ここまで長く続くような話ではなかった。香港が中国に返還されるから、ほんのちょっとの間、香港映画のコーナーを作りたいという、そういう程度の話だった。ところが、「評判がいいのでもう少し続けましょう」とか言われて、延長して続いていたコーナーなのでした。 早めに書き上げてあった別バージョンの原稿は、こちらをごらんください。