スティル・ブラック

このところ、やたらと物騒な事件が続いている。台湾では大地震が発生し、大きな被害が出た。東海村では放射能が流出するという事故が起きた。ハイジャックした飛行機を素人が操縦しようとしたという事件もあった。なんとも恐ろしい世の中である。 　ところが、こういう事件があると、それをいち早く取り込んで娯楽映画を作り上げてしまうというしたたかさが香港映画にはある。例えば、『Ｂ計劃』という作品（日本未公開）。これなどは、あの地下鉄サリン事件を題材としているのだ。あの事件を娯楽映画に仕上げるなど不謹慎きわまりないという気がしないでもないが、それをやってしまうところが香港映画のパワフルなところでもある。 　実は、本作でも地下鉄サリン事件が絡んでくる。 　東欧の小国にある中国大使館に派遣されたドン（チウ・マンチェク）は、着任するなり地下鉄サリン事件の犯人であるカルト教団のリーダー、ミシマに遭遇し、激闘のすえにこれを捕らえる。だが、このミシマが武器を横流ししている軍上層部とつながっていたため、中国大使館は教団信者と軍とを敵にまわすことになってしまう。四面楚歌の中、ドンたちはミシマ移送の任務を託されるのだが…。 　地下鉄サリン事件の他、天安門事件などもさりげなく取り込まれている。それでいて徹底した娯楽作品なのである。まさに香港映画の真骨頂というべきか。 　主演は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ�W　天地覇王』等のチウ・マンチェク。アクション場面の演出をベテランのチン・シウトンが担当し、見ごたえのある作品となっている。

1989年／ビデオ＝ワーナー・ホームビデオ、15,000円