GARAKUTA

園生義人（そのお　よしと）

園生義人、などと言われてもほとんどの人は名前を知らないだろう。僕も実際に本を手にとるまでは、まるっきり知らなかった。ところが、いざ読んでみると、意外と面白かったのである。もっとも、誰が読んでも面白いとは言えそうにもない。なにせ、描かれている風俗が古い。たいていの人は「こんな女子高生がいるもんか」と笑うのがせいぜいだろう。だけれど、僕にはその古さが面白かったのだ。時代というものが、こういう小説には見事に反映されているのである。
そもそも、なんで園生義人の本を手にとったかというと、根っからのマイナー好みという我が性分があり、昔っからの青春小説好きというベースがあり、そして表紙の絵がすごく気に入ったということがあった。ここに掲載した春陽文庫の表紙を描いているのは、いずれも下田恵三氏である。どういう方なのかについては、下記をご覧ください。この人の画集があるものならば、ぜひとも１冊欲しい。そう思うくらいに好みの絵なのであります。見事に時代が表れているではありませんか。

園生義人
いわゆる大衆小説のベテラン人気作家に山手樹一郎があり、また城戸禮があるが、園生義人もそうした真に広く大衆読者の間に大きな人気をもつ作家のひとりである。いままでに貸し本屋向けの作品を多くかいて、その作品がひっぱりだこといわれ、大衆の評判を持続していけるということは、大衆文学をかくコツを十二分に心得ているというなによりの証左であろう。
園生義人はかつて講談倶楽部賞を受けてデビューしているが、この賞の受賞者からは司馬遼太郎も出ている。さらにまた双葉新人賞も受賞して、大衆ものの現代小説のベテラン大林清に師事、それから続々と長編をかいてウデをみがいた。自身、かつて女子高校の教師をしていたという経験をもっており、その体験を作品に生かした高校生ものに特徴をもつ健康なユーモアのある作風は、その故に大衆の支持をえている。

下田恵三
春陽文庫の園生義人の本の表紙を描いている画家。他にも、春陽文庫の表紙を何冊か描いているようだ。

本名は下田金太郎。金太郎という名前が恥ずかしいという理由で「恵三」という名前を使っていたらしい。
もともとマンガを描いていたとのことで、国会図書館に「おたねとさら吉」下田恵三著（東京漫画出版社／1955年）という本が収蔵されている。
売れていない頃は、水木しげると上野で似顔絵のアルバイトをしていたこともあったらしい。

他にもいくつかペンネームを使っていたようで、そのひとつに「杉浦市郎」がある。検索して調べてみると、「漫画サニー」というアダルトコミック誌がひっかかってくる。なるほど、この絵なら色っぽいマンガを描いていたと言われても納得できる。

ピークの頃は週刊漫画や週刊実話、週刊現代などに４～５本の連載を持っていたとのこと。
連載マンガの他に、童話の表紙、講談社の百科事典の人体画、週刊誌の小説の挿絵なども描いていたらしい。

ちなみに、春陽文庫の表紙の絵は、本人の娘さんをモデルにしているとのことだ。

春陽文庫目録（１９７３年）より

	腕まくり女高生東京でも名高いスッポン料理店の娘 ― 姉の滋子は十七歳の高校生、妹のトヨ子は十三歳の中学生！ ― 姉妹の周囲でつぎつぎに起こるおもしろい小事件を通して夢多きおとめたちの日常生活とセックスへの関心を描く明朗長編傑作！昭和４４年６月６日発行この作品の主人公は、セックスに対してけっこう積極的な好奇心を持っていたりするので、ちょっと他の園生作品とは明朗さの微妙なニュアンスが違っているような気がする。やっぱり園生作品にはもっと純情な高校生が似合うと思うのだけどなあ。
	男装の女子高校生旅館「福寿閣」のひとり娘えり子は、まだ高校三年の清純なおとめであったが、早く両親をなくしたため旅館の女主人であった！　まわりの暖かいバックアップの中にもやっかいな事件は起こる！ ― 若き男女の心理と生理を描く快心作！昭和４４年８月１５日発行なんたって、高校生の女の子が旅館の女将という設定がすごい。その主人公がボーイッシュな格好をしているのだけれど、タイトルになるほど意味があるわけじゃなかったりして（一応、それなりの意味はあるんだけどね）
	チビ助女子高校生チビ助と愛称されるほど小柄な克子だが、彼女はかわいい女子高校生！　きょうも仲よしの三人で、きわどい話題に興じていた。女体の神秘についての会話も思春期のおとめたちにとっては当然だろう！ ― 十代の生態を描く青春編！昭和４４年９月５日発行未読なんだけど、表紙の絵がやたらと暗いのが気になるなあ。
	水着の女子高校生十七歳の青春！　以代子、みつ子、純子の三人は仲のいい女子高校生。男友だちにさそわれて行った海で、以代子はヨットの青年と知り合い、毎月第一日曜にこの海岸で会う約束をした！ ― 思春期のおとめたちの姿を描く青春編！昭和４６年７月２５日発行
	ねらわれた女子高校生ユカ子は一流のジャズシンガーになるのが夢！　医師の兄・幸吉はそんな彼女のことが何かと気になる。ユカ子は姉の夫がバンドマスターをつとめる楽団の歌手を志して家でした！ ― さわやかな若者たちが展開する青春の野心と恋！昭和４７年８月５日発行主人公のユカ子があっさり歌手デビューしてヒット曲をとばしてしまうあたり、ひと昔前の少女マンガみたいな展開だけれど、それでいて芸能ものになっていないところがさすが園生義人である（笑）
	令嬢はお医者さま二十五歳の美しい女医・伊佐朋子は、長女して母のない家庭を明るく守っていたが、大学生の弟、女子高校生の妹は問題の多い年ごろであった！　朋子も父が校医をつとめる女子中学の青年教師・田川圭介と知り合って……!? 昭和４７年１０月１０日発行ね、いいでしょ、この表紙。ちなみにこの主人公、まだ２５歳なのだけれど、すでにオールドミスと呼ばれたりするのである。今じゃ考えられないけど、そういう時代だったんだね。
	うわきの手ほどき新宿のバー「ポポ」のバーテン尾崎桃太郎は、失恋のたびに病院経営のおじに助けを求める気のいい青年。女色を禁ずるおじの厳命が下ったが、銀座の妖艶マダムに誘惑されて……!?　彼女はおじの病院の患者でもあった！　長編明朗編！昭和４８年５月２０日発行明朗小説なんだけど、一度関係を持ってしまった銀座のマダムにストーカーされたりして、ちょっとサスペンスの味付けがしてある……のだろうか（笑）
	のぞいちゃいけない東京西郊のウグイス山団地に若い二組みの夫婦が引っ越してきた！　そこには独身四十男の童話作家、彼を“先生”としたうのぞき趣味の大学生などの住人がいて……!?　― 現代風俗を象徴する団地住人たちのてんやわんや騒動記！昭和４８年１０月１日発行この表紙がまたいいんだ（笑）
	夜遊び大好きサラリーマンの妻駒子は、夫が一年の海外出張となって一人寂しく残された！　女学生時代からの親友のやす子、富士子は駒子をなぐさめるべく……？？　― おかしなおかしな男と女の物語、エロティック・コメディーの傑作編！昭和４８年１１月２５日発行夫が単身赴任してしまった主人公と、その友人の２人の人妻が、夜遊びを繰り返すって話しなんだけど……夜遊びったって可愛いもんです。
	あたしだけの秘密女性下着制作会社の青年営業部長、三十歳の秋田司郎は、Ｍデパートからの不良製品についての苦情に、あわてて駆けつけていった！　が、その裏には親友の妻の姉である美人デザイナー稲田阿規子のひそかな計画があったのだが……!? 昭和４９年１２月２０日発行ああっ、これまた表紙の絵が可愛くていいなあ！なお、この作品は大和出版から発行されていた『ママさんの告白日記』の改題作品でした。そして、上のストーリー紹介には実は嘘があって、稲田阿規子は「親友の妻の姉の娘」なのでした（笑）
	ただいま恋愛中小川家の下宿人 ― 中学生の大橋比呂子、その姉で美人の圭子、画家の宮原行雄、サラリーマンの伊藤、松本の五人に、新しい下宿人として三十歳の大学生生方石松が加わった！　― 小川家の下宿人を中心に展開する心暖まる物語！昭和５０年１月１０日発行森さんによると、大和出版から出た『ママさんはお人好し』の改題だそうです。
	お願いゆるしてＷ大の野球部員の殿村良平とてんぷら屋のひとり娘の鮎子とは恋人同士！女流カメラマンの美穂子が良平に結婚を断られて計画したことは……!?　家出した良平と鮎子は反対を押し切って結婚へ！　― 明るく描く若人たちの青春譜！昭和５０年４月２０日発行
※作品紹介文は「春陽文庫目録」より引用させていただきました。