三崎書房　航シリーズ

　三崎書房というのは、どうにもよく分からない出版社である。「えろちか」などという雑誌を出し、『壇の浦夜合戦記』『フロッシー』で摘発を受けたかと思うと、その一方で『錆びついた命』『ジロがゆく』『はみだし野郎の挽歌』といった真崎・守のマンガを出し、「幻想と怪奇」などというマニア向けの雑誌を創刊したりもしている（ただし、これはすぐに歳月社に移る）。そして、「海の風雲児ＦＯＸシリーズ全14巻」などといういったい誰が読んでるんだよ、というような海洋冒険小説を出したりもしているのだ（ま、それを言ったら、至誠堂の海洋冒険小説だって、いったい誰が読んでいるのかと思うんだけど）。本当に、何がメインの出版社なのやら。
　で、その三崎書房から全６巻で出された海洋冒険小説の叢書が、ここで紹介する「航シリーズ」なのである。本の背には○の中に「航」という文字の入ったマークがあり、表紙にも同じマークに「アドベンチャーズ」とあるので、叢書名はもしかしたら「マル航アドベンチャーズ」というのが正しいのかもしれないが、それじゃまるで高齢出産みたいだし、奥付にはシンプルに「航シリーズ」とあるので、ここでは便宜上「航シリーズ」ということにしておく。
　第１巻の『地獄のオーシャン・タッグ』は海洋冒険小説ではお馴染みの高橋泰邦が翻訳を担当しているが（もっとも、過去に講談社から出した本の改題なのだけれど）、２巻以降はいずれも高橋泰邦に師事した翻訳家が翻訳を担当している。作品がバラエティに富んでいるのは、もしかすると作品選定も各翻訳家にまかせた結果なのかもしれない。
　なお、各巻の巻末には「訳者あとがき」がついている。

	航シリーズ１ 地獄のオーシャン・タッグ（Stella） ヤン・デ・ハルトーホ 高橋泰邦訳 カバー：板東道美 1983年12月20日発行 　第２次世界大戦下、大西洋上でドイツ∪ボートの餌食になる連合国輸送船団。懸命に助けを求める“傷ついたアヒル”を決死で救助曳航するオランダの航洋曳き船（オーシャン・タッグ）船隊。その船長たちの平均余命は３ヵ月。苛酷な条件で奮闘する武器なき戦士が、港での束の間、恐怖と疲労から救われ、心と体を癒されるのはステラという囲い女の胸だけだった。やがて死を予感した船長は心を許す同僚にステラのアパートの合鍵を渡して還らぬ航海に出てゆく。一つの鍵とともに男を迎えては死に別れてきた悲哀を隠して、新任の「私」をまた優しく抱く美女ステラは母性か娼婦か。その胸で甦った男は今日も死地へ……。 ※講談社ウィークエンドブックスから出ているヤン・デ・ハルトグの『鍵（The Key）』の改題。原題が“The Key”とあるのは、映画化された時のタイトルが「鍵（The Key）」だからでしょう。
	航シリーズ２ 漂流航海・死闘の41日（Men Against the Sea）1934 チャールズ・ノードホーフ／ジェームズ・ノーマン・ホール 海津正彦訳 カバー：板東道美 1983年12月25日発行 　ブライ艦長率いるバウンティ号は、ポリネシアの島々でパンの木の苗木を積み、いよいよ帰路についた。その直後、艦上に反乱が勃発し、艦長以下19名は、全長７メートル足らずのボートをあてがわれて、南海の真只中に放たれた。 　飲料水も食料も武器も、持ち込みを許されたのは、ごくわずか。あたりは蛮族の住む島ばかり。助けを求めるとすれば、西方6700キロの彼方に浮かぶチモール島の基地のみ。 　襲いくる激浪、視界をとざす驟雨、体温を奪う烈風。荒磯に敵意をむき出しにする島民、そして、しだいに露わになってくる艇内の葛藤。 　海でのサバイバルを描きつつ、ブライ艦長の実像にせまる！ ※有名な「バウンティ号の反乱」を扱った小説であるが、実はこの小説は３部作として書かれ、いわゆる「バウンティ号の反乱」として知られているのは、その第１部であり、バウンティ号を放逐されたブライ艦長のサバイバルを描く本書は第２部にあたる。
	航シリーズ３ リベンジ号最後の海戦（The Thunder And The Flame）1964 アレクザンダー・フラートン 高沢次郎訳 カバー：板東道美 1984年２月20日発行 　英国からスペイン舞敵艦隊（アルマダ）が潰走してから３年後の1591年８月、スペインの財宝船団を拿捕すべく、七隻からなる英国戦隊が、ポルトガル沖のアゾレス諸島に待ち伏せの陣を張っていた。 　しかし、そこにあらわれたのは、スペインの五十隻をこえる強力な艦隊であった。英国戦隊はからくも脱出するが、たった一隻の英国ガレオン船−−副司令官リチャード・グレンビル率いるリベンジ号だけは、果敢にも敵と対決した。 　五十数隻対一隻の海戦はいかに展開し、いかに終結したか。 　興隆期英国海軍の歴史に華麗な一輪を咲かせた壮絶な海戦を、史実を駆使して迫真的に再現する雄編！
	航シリーズ４ 討て！ヤンキー私掠船（Captain Caution A Chronicle of Arunndel）1934 ケネス・ロバーツ 高岬沙世訳 カバー：板東道美 1984年６月15日発行 　トラファルガルの海戦後、七つの海に君臨するイギリスと、通商の自由を求める新興国アメリカ−−1812年６月、ついに両国は戦争に突入した。 　同年８月、それとは知らぬ広東帰りのアメリカ商船が、イギリス艦の砲撃を受ける。船長は戦死。一等航海士のマービンは、船長の娘と船の安全を図って降服する。その船を一度は奪還するが、ふたたびイギリスの捕虜となり、収容された廃船はまさに“地獄船”だった。マービンは、連れ去られた恋人の救出を誓い、復讐の念に燃える……。 　虚実を尽して戦う各国私掠船隊、一獲千金を狙う売国奴、暗躍する奴隷・密輸商人、画策する外交官などが入り乱れるヨーロッパを舞台に、慎重かつ剛胆なヤンキーの私掠奪船船長の活用を描く。
	航シリーズ５ 狙われた秘密輸送船団（Strike North）1965 Ｗ・ハワード・ベイカー 高永洋子訳 カバー：板東道美 1984年８月25日発行 　1941年の冬、美国海軍巡洋艦サクソン号率いるソ連向け輸送船団は、軍需物資を満載し、酷寒の北極海をひた走っていた。目的地ムルマンスク近し、と維もが安堵の胸をなでおろしたとき、行く手に現われたのは、またしても敵ドイツの一大∪ボート群だった。まるで待ち伏せしていたかのように……。このところソ連向け輸送船団は頻繁に∪ボート群に襲われていた。まるで、船団の位置を正確につかまれていたかのように……。 　旗艦サクソン号に売国奴がいる！　船団の位置を敵に通報している奴がいる！　そいつは誰だ？　どうやって？　恐怖と疑惑の渦巻くサクソン号を舞台に、軍医に身を変えた英国情報部員クインティンの、スパイ捜査が極秘裡に展開されていく…
	航シリーズ６ 非情の楽園（The Earthly Paradise）1940 Ｃ・Ｓ・フォレスター 高津幸枝訳 カバー：板東道美 1985年３月１日発行 　1498年５月、法学者のナルシソ・リッチは、スペインを出帆するコロンブスの第三次遠征隊に、勅命により参加し、百戦錬磨の郷士たちとともにコロンブスの旗艦に乗組む。 　熱帯の太陽の下、過酷な船内生活や郷士たちの愚弄に耐えながら、彼はコロンブスに代わって新発見の地の探険を指揮する。 　やがてたどり着いた目的地エスパニョーラ島の植民地で待ち受けていたのは、コロンブスの部下の反乱、原住民の抵抗。リッチは騎馬武者にまじってインディオとの戦いに加わり、熱病の猖獗する島で、策謀の渦中に巻き込まれてゆく。 　ホーンブロワー・シリーズの作者Ｃ・Ｓ・フォレスターが、大航海時代の幕開きとなった歴史に残る探険航海を、臨場感あふれる筆致で描き上げた力作！