三橋一夫（みつはし　かずお）

三橋一夫を初めて読んだのは、高校生の頃だったろうか。春陽文庫の『ふしぎなふしぎな物語』を読み、そのなんとも奇妙な味わいにとまどいつつも陶酔したものだが、それっきり三橋一夫の本に出あうことはなかった。『ふしぎなふしぎな物語』とは縁もゆかりもなさそうな本で三橋一夫の名前を見ることはあったが、それはたぶん同姓同名の別人であろうと考えていた。
ところが、同姓同名の別人であろうというのは、半分は当たって、半分ははずれていた。確かに、同姓同名の三橋一夫がいるのである。建築関係の本を出している三橋一夫、音楽関係の本を出している三橋一夫などなど、どういうわけか数人の三橋一夫が確かに存在しているのである。そして、本家本元の三橋一夫はというと、ひとりで複数のジャンルにわたる本を出していたのである。不思議小説を書き、明朗青春小説を書き、健康本を書いていたのである。ああもう、ややこしい。
著書の数は半端でなくたくさんあるらしいのだが、そのほとんどを持っていないので、とりあえずここでは春陽文庫にしぼりこんで三橋一夫を紹介しよう。

三橋一夫
わが国の雑誌界で「新青年」ほど数々の話題を投じた月刊誌もそうザラにはない。「新青年」を愛するオールド・ファンが今もって多いのには一驚させられるものがある。近ごろの復刊ブームの波にのって「新青年傑作選」全五巻が出たが、これも大きな話題をよび、実際に「新青年」をしらない世代の読者にもそのおもしろさ、独自のその持ち味などの一端をしらせることができてよろこばれた。
三橋一夫はその「新青年」からデビューした作家であり、その作品は「腹話術師」（二十三年）であった。そして、同誌にひきつづいて発表した「まぼろし部落」の連作は、作者みずから〈不思議小説〉と銘うつものであり、単なる幻想小説から一歩ぬきんでた独自の味をもつ佳作として、大きな世評をかちえたものである。
その後、クラブ雑誌でもユーモア小説、現代小説を次々に発表し、その作品は多い。

	無敵ぼっちゃん 先祖代々幕府講武所の武術指南役の家がらであった満星家に生まれ、父の厳命で幼いときから柔道を習い、その腕にますますみがきをかけていま大学生となった勇之介は、初恋の美女ルイ子と再会することになった！ ― 明朗活劇編！ 昭和４６年４月１５日発行（表紙：木村卓）
	大学の熱血児 城山大学に入学した月影健児は、故郷の明石の漁村から上京、姉夫婦の経営するハナヤ生花店に近いアパートで、大学生としての第一歩をふみだすことになった。…… 　1.84メートル、83キロの偉丈夫である健児が頼まれた奇妙なアルバイトとは？ 　森脇流華道家元である森脇家の妹娘桂子をめぐる恐喝事件であった。桂子がでいりしている加田美容研究所で、ひそかに桂子は蒸しぶろにはいっている写真を撮られていた！ 　その秘密を握っている怪しい男、研究所の所長加田は何者かに殺された！　仲間の恐喝者外山も刺殺された！　次々に発生する怪事件！　桂子の姉葉子の夫福島が失踪しており、その行くえを探ることも健児は頼まれた！　大学の熱血児が大活躍するミステリアス明朗編！ 昭和４６年５月１０日発行（表紙：木村卓）
	大学の爆弾児 城山大ボート部選手の偉丈夫・月影健児は、ぐれん隊にからまれていた男を救ってやったが、男は自殺し、その妻も自宅で殺され、その疑惑が大学の助教授杉浦に向けられて……事件の渦中へ！ ― 青春ユーモア活劇痛快編！ 昭和４６年９月３０日発行（表紙：木村卓）
未入手で〜す（涙）	ぼんくら社員と令嬢 「金時」というあだ名のとおり童顔で力もちの大男・一文字勇は、大学の同級生の家に招待された。ところがその夜、三人の怪漢が忍び入り、妹の令子さんが誘拐されるという怪事件が突発した！　勇は……!? ― 異色ユーモア活劇編！
未入手で〜す（涙）	青年秘書誕生 クラウン・ビール販売課の人気もの堀部安平は、日東大学前の“ホリベ・スポーツ店”のむすこ。父の弥平は古武士そのものという人物である。それもそのはずご先祖さまは赤穂義士で有名な堀部安兵衛だという！ ― ユーモア会心作！
	大暴れ若旦那 ボート部の選手で巨漢の沖田俊一は大学卒業寸前に父を失い、思いきって屋敷を売った金でてんぷら屋を開店した！　屋号はボートにちなんで「六番」！　先輩たちのひきで店は繁盛したが……!? ― 人情の機微を描く青春傑作編！ 昭和４７年９月１０日発行（表紙：木村卓）
未入手で〜す（涙）	げんこつ青春記 宇土鉱業の新入社員・東大六は、社長の依頼で給仕の小室春雄とアパート暮らし。ある夜のこと、春雄の行動に不審をいだいた大六は、ひそかにその跡を追った！　その先で刺殺事件が起こった！ ― 異色ある推理活劇長編
	無敵五人男 新宿の盛り場でひょんなことから知り合い意気投合した愉快な五人の男たち！　てんぷら屋経営の新ちゃん、弁護士の頓田力三、城南大生の月影健児、サンドイッチマンの金武八郎、そして豪傑和尚の岩壁呑竜たちがまきおこす楽しい物語！ 昭和４８年３月２７日発行（表紙：木村卓）
	ばんから大学 　毎朝五時になると、大亜大学前のセンベイ屋の物干し台から、鋭い気合いがあたりに響いた。センベイ屋に下宿している大学三年生、剣道部副将四段の鮫島盛次の鉄棒千回振りである。そのたのもしい好青年・盛次がまきこまれた怪事件とは!? 　同じ剣道部員で一年生の土屋秀男が、恩人の浪上産業社長・浪上徳太郎のむすこ繁治を誘拐し、姿を消したという。その身代金二百万円を真鶴駅に持参せよとの脅迫状がきた！ 　センベイ屋のひとり娘で二年生の節子、校内売店の娘ヒロ子、剣道部主将で四年生の牛山源一郎といった連中といっしょに、盛次は事件の追求にのり出した！　浪上夫人と二年生の秀才・原田達志との関係は!?　怪しの興信所員の登場は!? 昭和４８年７月２０日発行（表紙：木村卓）
	花嫁紛失 ソバ屋松露庵の客は力さんひとりだった。力さんは前首相の嗣子で本名を頓田力三という。その日、親友で大学野球の名投手だった金武八郎と、いとこの小牧美恵子が結婚し、新婚旅行へ出発したのを見送っての帰りに、松露庵に立ち寄った力さんであった。 そこへ力さんを見知らぬ男が訪ねてきた。右手に握っていたマッチを手渡して男は倒れた。何者かに背中を刺されていた怪しの男は、血の海の中に死んでいった！ 新婚旅行の列車の中で新夫の八郎とけんか別れした美恵子が、力さんを頼って戻ってきた！ 美恵子の親友で金持ちの米倉房子邸で第二の殺人事件が発生！　サア！　てんやわんやの怪事件にまきこまれた力さんは!?　ベテラン三橋一夫のユーモア推理の長編快作！ 昭和４８年１２月５日発行（表紙：木村卓）
	消えた娘 城南大ボート部の選手だった好青年の杉田三太郎は、いまボートハウスの主人として“銀座太郎”と呼ばれて親しまれ、超熱烈な女性ファンも三人あった！　が、とある意外な事件にまきこまれて警察に追われることになった太郎は!? 昭和５１年１０月２０日発行（表紙：佐伯克介）
	青春恋修業 大学在学中にヨーロッパ留学を命ぜられ、帰国と同時に母校の助教授、すぐにも経済学博士になるものと嘱望されていた大山太次氏が、こと志とは異なり、いまやハゲ頭で赤鼻のグチっぽい三文文士に落ちぶれはてて語る青春の日日！ 昭和５２年７月２５日発行（表紙：下高原千歳）
	ふしぎなふしぎな物語１ イタリアのミラノから南仏ニースへの列車の中でわたしが会った一人の男、イタリア人の寄席芸人、腹話術師が語ってくれたふしぎな話とは……!?〈第一話〉 ― 世にもふしぎな“ふしぎなふしぎな物語”の数かず！　第一集全14話収録！ 昭和５１年２月２５日発行（表紙：木村卓）
	ふしぎなふしぎな物語２ 「ぼくは鬼の子孫だ、生きてはいられない！」との自殺予告の友人からの手紙！　その遺書にしるされていた二十年前の恐るべき事実とは……!?　十三体の仏像に秘められた彼の謹厳な父のナゾとは!? ― “世にも不思議な物語”集全15話！ 昭和５１年５月２０日発行（表紙：木村卓）
	ふしぎなふしぎな物語３ 鏡の中からのびてきた二本の腕、白い十本の指が男の首に徐々に食い込んでいく！　富豪国井家で起きた恐怖の惨劇と、のろわれた黒い血の流れとは……!?〈第十話・黒の血統〉 ― 「ふしぎなふしぎな物語」全12話収録の第三集！ 昭和５１年６月２５日発行（表紙：木村卓）
	ふしぎなふしぎな物語４ 代診医のわたしは院長夫人に魅かれて密会を約束したが、彼女はマンホールに落ちて死んだ！　それからは彼女の幽霊が……!?〈第十二話・浮気な幽霊〉 ― 世の中にこんなにふしぎなお話のかずかずが……!?　全13話収録の第四集！ 昭和５１年７月２０日発行（表紙：中島靖侃）
おまけ 「ふしぎなふしぎな物語２」のスリップ（笑）
※作品紹介文は「春陽文庫目録」より引用させていただきました。ただし、「大学の熱血児」「ばんから大学」「花嫁紛失」の３冊はストーリー紹介の載っている目録を持っておりませんので、本のカバー折り返しのストーリー紹介を引用しています。
メモ 実は「ふしぎなふしぎな物語」以外、まるっきり読んでいないのだけれど、今回ストーリー紹介を転記していてミステリーっぽい設定が非常に多いのに驚いた。不思議小説作家、明朗小説作家という認識はあっても、ミステリー作家という認識はまるっきりなかったのだが。持っているだけではなく、読まなければいけないなあと反省（笑） 表紙の絵はほとんどが木村卓氏の手によるものである。いかにもユーモア小説、明朗小説といった絵柄であるが、「ふしぎなふしぎな物語」だけはまるでタッチが違うので、別の人の絵であると思っていた。ところが今回確認してみると、同じ人の絵であると知ってびっくり。 ところが、昭和５１年７月以降に発行された３冊の本は別の人が表紙を担当している。この頃に健康を害されるか、亡くなられるかしたのであろうか。