美少女戦士計劃１９９４

　香港で「セーラームーン」がブームであると聞いた瞬間、僕の頭の中ではとてつもないスピードで妄想が駆け巡り、瞬時にして『実写版セーラームーン』が香港で上映されている情景が脳裏に完成していた。それはもう既成事実と呼ぶに等しいほどのリアリティをもった情景であった。なにしろ、「スラムダンク」ですら映画化してしまう香港である。「セーラームーン」を放っておくはずがないではないか。絶対にこれは実現すると、僕は強く強く確信した。そして、監督はバリー・ウォン、主演はチンミー・ヤウ、武術指導はチン・シウトン、これまた間違いのないところであろうと確信した。他のスタッフによる「セーラームーン」など考えられないし、他のスタッフで「セーラームーン」を映画化して成功するとも思えない。この三人はどうしても譲れないところだ。
　さて、それでは他の配役はどうするか。ふと気がつくと、なんのためらいもなしにそんなことまで考えている自分が怖かったりして。無意識のうちに妄想が暴走を始めてしまっているではないか。しかし、抵抗することなどできはしないのだ。
　タキシード仮面はアンディ・ラウというのがまずまず順当なところであろう。問題は他のセーラー戦士たちであるが、セーラー・マーキュリーはアニタ・ユン（新不了情）、セーラー・マーズはクリスティ・チョン（破壊之王）、セーラー・ヴィーナスはミシェル・リー（方世玉）、セーラー・ジュピターはカルメン・リー（妖獣都市）といったところでどうだろうか。主人公たちが中学生だなどというオリジナルの設定などハナから無視して、自分の欲望のおもむくままに決めていってしまうぞ（オレって、実はあぶない男だったのね）。
　敵組織のボスにはアーロン・クォック。悪い奴は美形というのがセオリーである。そして、その手下には、ドゥドゥ・チェンとアニタ・ムイのふたりを起用して、ちょいとお水でタカビーで冷酷な悪女をやってもらおう。
　ストーリーの基本設定は『セーラームーンＳ』からもらう。謎の敵がさまざまな物体にダイモーンという種子を憑依させて怪人を製造するという設定を利用したいからだ。それに、セーラー・ウラヌスとセーラー・ネプチューンも登場させたいではないか（ああ、いったい誰に演じさせればいいんだ）。
　で、いかなる怪人を登場させるかだが、これに関してはとっておきのアイデアがある。まずは小手調べ的に登場する怪人だが、バレーボールにダイモーンを憑依させて作った怪人をイップ・チーメイに演じてもらう。なんとブルマーをはいて両の胸がバレーボールになっているというとんでもない怪人だ（このキャラクターはちゃんとオリジナルのアニメにも登場してくる怪人なので、「ウッワーッ！　よしださんてゲッヒーン！」などと思わないでくださいね）。それから肉切り包丁と合体したアンソニー・ウォン、飲茶のワゴンと合体したミシェル・キング（別にミシェル・キングということに意味はないのだが、いかにも強そうなので採用。ちなみに、この怪人にはヤムーチャという名前をつけたい）などが登場してセーラー戦士たちを苦しめるのだ。そして、最後に登場する最強の怪人はというと、なんと映画祭会場に展示してあった「東方不敗」の衣装にダイモーンを憑依させて作ってしまうのである。演じるはもちろんブリジット・リン！　なんとなんと、セーラームーン対東方不敗というとてつもないバトルシーンが、チン・シウトンの演出によってスクリーン上に展開されてしまうのである。フッフッフッ、観たいだろう。
　なあんてことを書いていたら、本当に心の底からこの映画を観たくなってきたぞ。頼む、誰かこの企画をバリー・ウォンに伝えて、一刻も早く実現させてくれ。おお、観たいぞぉ！

（初出：「電影風雲１９９４」1994年）