超人計劃１９９３

　僕のような家族持ちが香港映画などという粋狂な趣味を楽しもうと思ったならば、家族の理解を得るということが非常に重要になってくる。ところがだ、我が家の３才になる息子はいっこうに理解を示してくれない。僕がビデオで香港映画を観ているとすぐにやってきて「まぁたジャッキン・チェンかぁ？　ウルトラマンみようよぉ！」と騒ぐのである（息子にとって香港映画はすべてジャッキン・チェンなのだ）。
「ジャッキン・チェンだって面白いじゃないか」
「面白くないよぉ。ウルトラマンにしようよ」
　ウルトラマン・フリークの我が息子にとって、ビデオデッキでウルトラマン以外の番組を観るということは許し難い行為なのである。かくして、香港映画を観たい父親とウルトラマンを観たい息子との間に、無影脚がとびかいスペシューム光線がさく裂する熾烈な闘いがくりひろげられることになるのだ！
　このドロ沼の事態を救う方法はただひとつ、香港でウルトラマンを映画化することだけである。そこで、香港でウルトラマンを映画化するための青写真を作ってみた。
　まず製作だが、これはウルトラマンの好きなアンディ・ラウが率いる天幕製片有限公司にお任せしよう。特殊撮影はもちろんツイ・ハークの電影工作室。問題は監督だが、例えば『ロボフォース／鉄甲無敵マリア』や『皇家戦士』のデヴィッド・チャンあたりでいかがなものだろうか。あるいは『霊幻道士シリーズ』のリッキー・リュウあたりでもいいかもしれない。いろいろな監督によるウルトラマンが考えられるだろう。しかし、間違ってもジョン・ウーやバリー・ウォンにだけは任せたくない。ジョン・ウーだとひたすら血なまぐさい闘いになりそうだし、へたをするとウルトラマンと怪獣との間に友情が芽ばえてしまう危険性がある。また、バリー・ウォンはバリー・ウォンでとことんハチャメチャになったあげくに、ウルトラマンが高校生になって学校に潜入してしまいそうな気がするではないか。やはり、監督は慎重に選んだ方がよかろう。
　それから香港映画に欠かすことのできない武術指導であるが、チン・シウトンを起用してワイヤーワークを多用したウルトラマンを作らせてみたいという誘惑には抵抗しがたいものがある。糸で吊した人形を飛ばすなどというウルトラマンはもういらない。これからは香港が世界に誇るワイヤーワークだ!!　だが、武術指導に関しては、もうひとつとんでもないアイデアがある。リー・リンチェイがぬいぐるみの中に入るということを条件に、ユエン・ウーピンが武術指導を担当するという企画はいかがなものだろうか。いまだかつて何びとたりとも想像しえなかったウルトラマンが誕生してくるにちがいない。問題は、このウルトラマンが強すぎて、スペシューム光線等の武器を一切必要としなくなるのでは、ということなのだが。
　あとは俳優陣だが、これはもう誰が演じてもかまわないだろう。個人的にはアーロン・クォックあたりがウルトラマンに変身する主人公にいいんじゃないかとは思っているのだが、トニー・レオンでもウィルスン・ラムでもかまわないだろう。ただし、シン・フイオンやン・マンタがウルトラマンに変身するという設定だけはやめておきたい。ヤクザの出入りのたびにウルトラマンに変身して敵組織を蹴散らしていたんじゃ洒落にもならないし、ン・マンタでは変身する前に怪獣に踏み潰されてしまいそうな気がする。やはり、主人公は若い二枚目の男優にしたい（でも、ジミー・リンじゃイメージが違うよね）。
　さてさて、ざっと以上のようなことを考えているのだけれど、どなたかこれを企画書にまとめてアンディ・ラウをたきつけてみようという方はいらっしゃいませんかね。我が家の平和のために、ぜひとも実現させてほしいと切実に思っているのですけどね。

（初出：「電影風雲１９９３」1993年）