ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ＆アメリカ 天地風雲

黄飛鴻（ウォン・フェイホン）という人物を御存知だろうか？　清朝末期に実在した武術家で、中国人なら知らぬ者とてない国民的な英雄である。南派少林洪家拳の達人で、そのすさまじいばかりの蹴りは、あまりの速さに影が地面にうつらないことから「無影脚」と呼ばれたという。 　香港では、その黄飛鴻を主人公とした映画が繰り返し作られてきた。有名なのは、クワン・タクヒンという俳優の演じたシリーズで、全部で99本！の作品が撮られている。また、ジャッキー・チェンも『酔拳２』で若き日の黄飛鴻を演じ、大ヒットを飛ばしている。 　しかし、白眉というべきは、なんといってもリー・リンチェイが主演した一連のシリーズであろう。このシリーズでリンチェイが演じた黄飛鴻は、若く凜々しく威風を帯び、まさに英雄と呼ぶにふさわしい人物像となっている。さすがは中国武術界の至宝とまで呼ばれたリンチェイだ。11才にして全中国武術大会優勝という実績はダテじゃない。 　そのシリーズ最新作の本作では、黄飛鴻は弟子の一人をたずねてアメリカ西部にまで出かけていく。そこでインディアンに襲撃されたり、銀行強盗と闘ったりというアクションが展開される。つまり、クンフー映画の面白さと、西部劇の面白さとを同時に味わうことのできる娯楽作なのだ。 　見どころは、記憶を失った黄飛鴻に一番弟子の鬼脚七が闘いを挑む場面。過去の闘いを再現することで、記憶を取り戻させようというのだ。シリーズをずっと見てきたファンにとっては、たまらない名場面である。 　監督は『ナイスガイ』などのサモ・ハン。監督として、役者として、プロデューサーとして活躍する、マルチ映画人である。

1996年／ビデオ＝日本ヘラルド、16,000円