スウォーズマン　剣士列伝

徳間書店から刊行中の金庸（香港の時代小説作家）の全集が実に面白い。香港では、この金庸の小説が繰り返し映画やテレビドラマになっているのだが、読んでみて「なるほど！」と納得がいった。とにかく、徹底したエンターテインメントなのだ。 　さきごろ翻訳の完結した『秘曲　笑傲江湖』も、読み出したならば“やめられない止まらない”の面白さで、全７巻という長さをまるで感じさせない。武林（武術界）の覇者たらんともくろむ剣士たちの争いに、究極の武術が記された秘伝書の争奪戦を絡ませた波乱万丈の伝奇小説なのである。 　本作は、その『秘曲　笑傲江湖』を映画化したものである。原作は全７巻もある長大なものなのだが、ダイジェスト版的な作品に堕すことなく、そのエッセンスが見事に映像化されている。監督はツイ・ハーク、チン・シウトン、レイモンド・リー、キン・フーの４人。 　見どころはなんといっても、俳優の肉体をピアノ線で吊るすワイヤーワークを駆使したアクションシーンの数々だ。 　なにしろ、監督のひとりチン・シウトンは、ワイヤーワークに関しては世界一の天才なのである。俳優の肉体が、重力に逆らってビュンビュン宙を飛び交ってしまうのだ。宙を飛びつつ剣をふるう俳優はさぞかし大変だろうと思うのだが、肉体をとことん酷使したアクションこそが香港映画の醍醐味なのである。 　主演は『ミスター・ブー』のサミュエル・ホイ。“読んでから観るか、観てから読むか”というフレーズがかつてあったが、“読んでよし、観てよし”の痛快時代活劇、それが本作なのである。

1990年／ビデオ＝東宝東和、16,000円