パラダイス！

香港が中国に返還されてまる１年がたった。その間に香港にどのような変化があったかというと、心配されていたような変化はまるでなし。１年前のあの大騒ぎはいったい何だったのだろうと、いささか拍子抜けしてしまう。 　もっとも、香港映画界はというと、いま空前の大不況にあえいでいる真っ最中。海賊版ＶＣＤ（ヴィデオＣＤ）の氾濫などで、映画館に足を運ぶ人の数が急激に落ち込んでいるのだ。おかげで製作本数も減り、ファンとしては淋しいかぎりだ。 　ま、それはさておいて、今回はいまいちばん光り輝いている旬のスターにご登場願うことにしよう。そのスターとは、金城武。日本では道内でも公開中の『不夜城』で一躍有名になったが、他にも『ダウンタウン・シャドー』『ニューヨーク・デイドリーム』『暗黒街　若き英雄伝説』といった主演作の公開が東京で相次いでいる。まさに、飛ぶ鳥をも落とす勢い。本作は、そんな金城の魅力がたっぷりと詰まった、ちょいと奇妙な味わいの作品なのである。 　金城が演じているのは、金のために殺しを引き受けておきながら、殺し屋を雇ってその仕事を下請けに出してしまうという変な若者。その設定だけでも妙なのだが、雇った女（カルメン・リー）に、いいように振り回されてしまうという展開がこれまた変。新鋭パトリック・ヤウ監督、なかなか面白いセンスをしている。 　見どころはというと、ひたすら走り回る金城武。いやあ、走ること走ること。そして、その走る姿のかっこいいこと。走る金城を見るための映画とすら言いきってしまいたくなる。 　香港映画界も、海賊版ＶＣＤなんか蹴散らして、金城のように元気よく走り続けてくれればいいのに。

1997年／ビデオ＝バンダイビジュアル、16,000円