欲望の翼

4月26日夜、中国返還後初の香港電影金像奨（香港のアカデミー賞）の結果が発表になった。作品賞を受賞したのは、フルーツ・チャンという無名の監督が撮った『メイド・イン・ホンコン』。名を知られたスターがひとりも出ていない、しかも、他のメジャー会社が余したフィルムを譲り受けて撮影を続けたという超低予算映画である。そうした逆境を乗り越え、みごと栄冠を手にしたチャン監督の才能はまごうことなき本物だろう。この新しい才能の出演を心から喜びたい。 　ところで、この『メイド・イン・ホンコン』の対極にあるのが本作であるといえよう。監督は今をときめく『ブエノスアイレス』のウォン・カーウァイ。主演は奇跡の６大スター競演。レスリー・チョン、アンディ・ラウ、ジャッキー・チョン、トニー・レオン、マギー・チョン、カリーナ・ラウ。これ以上は望みようもないほどの完璧な顔ぶれだ。もちろん、予算もたっぷり。 　そこで描かれているのは、ひとりの若者の出生の秘密を探る行動の軌跡と、その周辺に暮らす若者たちの痛々しいまでに真摯な青春。官能的なラテン音楽と、めくるめくスタイリッシュな映像にあふれかえったきわめて濃密な作品だ。ウォン・カーウァイ監督の天才を確信させるに足る素晴らしい作品である。 　が、問題がひとつ。この作品、実は完結していないのだ。なんとまあ、前半しかできあがっていないのである。そのため、思わせぶりなラストシーンに「えっ、これで終わりなの？」と驚かれるかもしれない。しかし、にもかかわらず、本作は1990年の香港電影金像奨を、作品賞をはじめとする５部門で受賞しているのである。まことにもって、とんでもない作品だ。

1990年／ビデオ＝日本コロムビア、3,059円