世界の涯てに

今、大きな期待を持って完成を待っている１本の映画がある。そのタイトルは『不夜城』。そう、新宿歌舞伎町を舞台とした馳星周のベストセラー小説の映画化だ。これが実に楽しみでならない。監督は香港のリー・チーガイ。そして、主演は日本人の父と台湾人の母を持つ国際派、金城武。この２人の顔ぶれを見ただけで、いやがおうにも期待に胸がふくらむ。なにしろこの２人、『世界の涯てに（原題：天涯海角）』という素晴らしい作品でもコンビを組んでいるのだから。 　本作で金城武が演じているのは、持ち込まれる捜し物をなんでも引き受ける便利屋の若者、チュン。彼のもとには、落とした財布の回収、行方不明の妻の探索など、さまざまな依頼が舞い込んでくる。そしてある時、不治の病に侵された娘、ケリー（ケリー・チャン）から、一人の船乗りを探し出して欲しいと依頼されるのだが……。 　監督のリー・チーガイは、この“奇妙な探偵”の物語を通して様々な人生を描いてみせる。中に挟み込まれるいくつものエピソードは、それぞれが一編の短編小説として成り立つほど感動的で、ジワリと胸にしみいる。失せ物を探すという行為は、人生を探すという行為でもあるのだ。 　やがて、チュンとケリーは世界の涯て、スコットランド沖にある死者の魂が帰るといわれる島にたどり着き、そこで自分の人生を見つけだす。希望を持ち続けさえすれば、この世から永久になくなるものなどないということを知る。 　この希望に満ちた感動的なドラマを、ぜひともご覧いただきたい。香港映画は、これほどまでに成熟しているのだ。

1996年／ビデオ＝アミューズビデオ、16,000円