ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天 地 大 乱

香港が中国に返還されるまで、あと10日となった。テレビや雑誌では連日のように香港が特集され、書店には続々と香港関係の書籍が登場してきている。だけど、中国に返還されたからといって、そうそう何もかもが変わるというわけでもあるまい。香港がイギリスに租借されることになった99年前に比べたら、中国への返還なんてたいした事件ではないのだから。そう、当時の中国は利権を求めて群がりくる列強諸国によってズタボロにされ、まさに満身創痍、実に大変な時代だったのだ。 　その混迷の時代に、ひとりの英雄が登場する、というのが今回紹介する作品。その英雄の名は、黄飛鴻（ウォン・フェイホン）！　かつて実在した伝説的な武術家で、中国では知らない者はいないという英雄中の英雄だ。その黄飛鴻が、世紀末の中国を舞台に大活躍するという骨太の歴史ドラマにして痛快なアクション映画、それが本作なのである。 　中国を民主国家として再建することこそが中国を守ることであると信じ、革命を目指す孫文。清朝政府を守ることこそが中国を守る道であると信じ、革命を叩きつぶそうと画策する武官。狂信的な信者を率いて西洋文化を力づくで排斥しようとする不死身の教祖。その三者の信念の対立の中を、黄飛鴻が駆け抜ける。おのれの信念に従い、正義の必殺技「無影脚」が炸裂するのだ！ 　監督は常に香港映画のトレンドをリードしてきた男、ツイ・ハーク。主演は中国武術界の至宝、リー・リンチェイ。このふたりの天才が出会ったことで初めて生み出された傑作。重力すら超越したアクションに驚嘆の声をあげ、国を思う男たちの生きざまに胸を熱くしていただきたい。

1992年／ビデオ＝東和ビデオ、15800円