『彼女はシークレット・エージェント』

毎年３月から４月にかけて、香港では国際映画祭が開催され、世界中の話題作が一挙に上映される。香港映画の回顧上映、特集上映などもあり、日本の香港映画ファンでこの映画祭を楽しみにしている人も大勢いる。しかし、「もしかしたらこの映画祭も今回で最後かもしれないね」などという会話が、今年はそこここでかわされていた。香港が中国に返還されたあと映画祭がどうなるのか、誰もが不安に思っているのだ。 　同様に、「もう、こういう映画が作られることはないんだろうなあ」と言われているのが本作。なにせこの映画、共産主義を笑いのネタにしたコメディなのだ。 　中国公安警察の女刑事チェン（ドゥドゥ・チェン）が、麻薬の密輸犯を香港に護送してくるが、香港警察のミスで犯人は逃亡。チェンは不本意ながら香港警察の刑事とチームを組んで事件解決に乗り出すのだが……、実はこのチェン、バリバリの筋金入りの共産主義者だったのだ！ 　という設定で、映画の中ではその共産主義者ぶりが徹底的にギャグの対象とされてしまうのである。しかも、香港人には大陸の中国人を田舎者と見下す傾向があり、この映画の中でもその手のギャグが繰り返し使われているのである。 　ラストシーンでチェンが「97年以降、一緒に仕事しましょう」と言ったところで、返還以降に続編が作られることはないんだろうなあ、と思わざるをえないではないか。秀逸なギャグが多く、日本人であっても大笑いできる作品なのだけれど。 　というわけで、返還前だからこそ作られた本作を、今のうちに楽しむのもいいいではないだろうか。

1990年／ビデオ＝ポニーキャニオン、14800円